伝わる温もり
奈々詩は馬岱に諸葛亮から頼まれた書類を渡そうと思ったが
彼に中々会えなく、ついには日が暮れかけてしまっていた。
「馬岱殿、いらっしゃいますか?」
彼の部屋の戸を控えめにノックした。
今日中に渡した方がいい書類なので、再び駄目元で部屋を尋ねた。
「はーい!いるよー!」
中から声が聞こえた。
自分の名前を述べると中へと招かれたので、ゆっくり戸を開いて机に向かう彼に近づいていく。
「諸葛亮様から預かりものです」
「諸葛亮殿から?うぇー、嫌な予感……」
そう言いつつも馬岱は奈々詩にお礼を言うと彼は机にそれを広げた。
「馬岱殿だけじゃ大変だろうと諸葛亮様からの命で補佐も致しますので気軽にお申し付けくださいね」
「ほんとに?助かるよー!あの人って容赦ないから……あ、これは秘密ね」
奈々詩が承知しましたと言い、くすくすと笑うと馬岱もその笑みにつられて笑う。
すっと手を伸ばして馬岱は彼女の頭を撫でようとしたが、その手は奈々詩の目の前で止まる。
「髪に何かついてると思ったけど見間違いみたい」
当たり障りのない言い訳をすると彼は手を引っ込め、書き物をしようとした。
奈々詩はその手に自分の手をそっと重ねる。
「あ、え…奈々詩殿……?」
「馬岱殿はどうして、その…頭を撫でたりと、触れてきてくれないんですか?」
少し頬を膨らませてムスッとした顔で彼女は馬岱を覗き込む。
自然と上目遣いになっている彼女、それに自分の手に重なる小さな手。胸が一瞬大きく鳴った。