ゼロセンチ


「あ…。す、すまない!この今の嬉しい気持ちをどう言葉で伝えればいいか上手く言えなくてだな。
いや、何を言っているんだ俺は……帰るか」

今の彼が可愛らしく見えたので奈々詩は思わず、くすりと笑みを漏らす。
そんな彼女の笑顔にときめいたのか、はたまた自分の発言に恥ずかしくなったのか。
馬超は耳まで真っ赤にしていた。

「そうですね、帰りましょうか。……あ、申し訳ありません。
傘…一つしか持って来てなかったです」

風に吹かれて傘が寂しそうにコロコロと円を描くように回る。
二人は体を離し立ち上がると馬超は傘を拾いあげた。
先程とは逆になり今度は馬超が奈々詩に傘をかざす。
間近で立つ彼はやはり大きく。見上げないと顔が見えない。

「二人で入れば問題ない。帰るぞ」

「…はい」

暫く歩くと時々軽く体に当たってしまうのでドキドキする。
チラリと馬超を見上げると奈々詩の視線に気づいたようで彼もこちらを向く。

「肩…濡れてないか? もう少しこっちに来た方がいいんじゃないか?」

「有り難う…ございます……」

そう言うと奈々詩の肩を手で自分の方へと引き寄せた。

またお互いに近くなる。

その距離はゼロセンチ。



...終...


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