百面相
「その…司馬懿様と夫婦となってからどの様な顔をしてよいか分からず……
ですが結果的に司馬懿様を傷つけていたんですね、ごめんなさい!!」
そう言うと奈々詩は勢い良く頭を下げる。
おそらく彼女は物陰に隠れては、自分とどのように会おうかと伺っていたのだろう。
司馬懿は自分の被害妄想っぷりへの自嘲と
彼女の可愛いさに笑い声を少し漏らした。
そして未だにうつ向く奈々詩の頭を撫でるように優しく手を置いた。
「そ、そう頭を下げなくても良い!
奈々詩。お前は…私と会うために努力していたのだろう?
それに気づかず尋問するようなことをして……悪かった」
「許してくださるんですか……!」
ようやく頭を上げた彼女は泣きそうな顔をしながらこちらを見るので司馬懿はたじろぐ。
「ば、馬鹿め!当たり前だ!」
彼の言っていることは暴言混じりだったが、顔を見ると照れているのだと一目瞭然だった。
奈々詩は嬉しくなり、司馬懿の両手を自分の両手で包むように優しく握る。
「司馬懿様、大好きです!」
「奈々詩……その、だな。
いつまでも司馬懿ではなく仲達と…お前にならそう呼ばれてやっても良い」
「仲達様…ですか?」
「あぁ……」
「仲達様!」
まるで新しい言葉を覚えた子供の様に奈々詩は無邪気に笑い、司馬懿の字を繰り返し呼ぶ。
いつもは鋭い眼差しだけをする司馬懿だが
今だけはその顔が緩んでいて、愛しいものを見る優しい目をしていた。
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