※学パロ
ギャグっぽいですがちらっと肌色風味です。

「うぉわッ!?」

ぐいっと無遠慮な力で足首を掴まれた葉は、素っ頓狂な悲鳴を上げて転倒した。
更に正確に言うなら、布団の上に引き倒されたと言うのが正しい。一瞬で反転した視界には、古ぼけた寝室の天井が映っている。畳へと強く打ち付けた頭を右手で抑えつつ、葉は眦に涙を浮かべて痛みに小さく呻いた。潤んだ眼差しで足元をじろりと睨む。自分にこんなことをする犯人は、一人しかいない。

「ッ、ハオ!」

叫ぶ様に名前を呼ばれたハオは、葉の様子を気にするでもなくにっこりと笑って見せた。一見無邪気な笑顔だが、実はこの顔の時のハオが一番手に負えない。葉のそんな経験則は、次の瞬間見事に的中した。

「うぎょあッ!」
「……葉、もう少し色っぽい声出してくれないかな」

がぶり、とハオは抱え上げた葉の足首になんの躊躇もなく噛み付いたのである。
予想斜め上をいくその行動に、葉は大変色気のない悲鳴を上げた。否、実の兄であるハオと非常に不道徳な関係に有ることは葉も認めよう。肌を重ねた回数はそれこそ数え切れない。昨日だって両親がいないのを良いことに、ケダモノと化した兄に散々貪られたのだ。このケダモノは"そういう時"に限ってかわいこぶるから質が悪い。可愛らしく小首を傾げ、強請る様な上目遣いでじっと葉を見つめてくる。お前普段の我が儘俺様王様っぷりは何処に落っことして来たんだと言いたくなる程、その様は可愛らしくいじらしい。きゅんと鳴った胸を満たす感情のまま、うっかり抱きしめて頬ずりしたくなるくらいだ。余り積極的に認めたくは無いが一応ブラコンの自覚が有る葉は、ハオのそんな反応にとことん弱かった。こればっかりはどうしようもない。
結局葉がそんなハオの態度に怯んだ隙を突かれ、嫌よ嫌よも好きの内とばかりに強行突破されてしまう。それが二人のいつものパターンだった。

「む、無茶ッ、言う、な!馬鹿ハオ!ぎにゃーッ!?」
「はは、何その叫び声」

しっぽ踏まれた猫みたい。
踝を舐められて再び素っ頓狂な悲鳴を上げた葉に、ハオはそう楽しげに囁いた。
余裕なハオに対して、足首をがっちり拘束された葉はさっぱりと言っていいほど余裕がない。引き倒されているせいで空いている両手はハオまで届かない上に、唯一反撃できそうな左足は兄の右足で器用に固定されている。ついでに、葉が今身につけているのは制服等ではなく、パジャマ代わりの浴衣だ。ぺろっと捲り上げられればあっさりと太股まで露になるから防御力もない。ぶっちゃけ八方塞がりだった。

「や、ちょッ、ぎゃーッ!」
「葉、うるさい」

ちゅ、ちゅと足にキスされる度に、葉の唇からは色気のない悲鳴が上がる。
剣道の摺足で皮膚が硬くなった葉の踵を柔らかく喰み、ハオは白い足の甲へと小刻みに唇を這わせた。文句を言う割にやめないのだから、ハオもハオで矛盾している。おまけにくすぐったいだけじゃなく、じんわりとした熱が徐々に背筋を這い上がってくるから尚更困った。ハオの唇と一緒にそれは葉の爪先から膝へと競り上がってくる。
膝裏の柔らかい皮膚に少し強く吸い付かれると、ちくりとした痛みと一緒に赤い跡が残った。それを目にした瞬間、葉の頬に言い表せない羞恥が走る。
何で夏休み初日の朝っぱらからこんなことになっているんだ!と葉は心の中で絶叫した。

そう、今日から二人の通う森羅学園は夏休みだ。

おまけに、両親は昨日から夫婦水入らずで旅行に出掛けている。先日、ハオが商店街の福引でペアの温泉旅行権を引き当てたからだった。葉もやったが、参加賞のポケットティッシュしか貰えなかった。容姿はそっくりなのに、成績や性格だけでなく運にまで格差がでるのかとちょっと恨めしかったのは記憶に新しい。
けれど、今はそれどころではないのである。

「な、ちょッ、ハオ、ハオッ!まっ、ちょッ落ち着くんよ!朝っぱらからなにする気だ!?」
「え」
「えッ」
「いや、ここまできてもわかんないのかぁ」

葉ってば相当天然だね、とハオは独り言の様に呟いた。
いや、解る。なんとなく薄ぼんやりとではあるが、葉だってハオが昨日したのと同じことをしようとしているのはさすがにわかっている。分かってはいるが、余り認めたくないというのが正直な所だ。
けれどそんな葉を軽やかに無視して、ハオは満面の笑顔で宣ったのである。

「何って、ナニだよ」

それは葉にとって、終了のお知らせと同じだった。
けれど絶望的な気分とは裏腹に、言葉の意味を理解した葉の頬はぼんっと音を立てて朱色に染まる。片割れの初々しい反応に、ハオは嬉しそうな甘い笑みを浮かべた。急にわたわたと抵抗し始めた葉を抑え込みながら、青い感触の太ももへと歯を立てる。

「だ、だだだ誰が親父ギャグ言えなんていったんよー!!つか噛むな!うぉっ、ちょッっ!ぎゃー!!」
「葉が聞いたんじゃないか。てか、ギャグじゃないからね?僕はどこまでも本気だよ」
「余計に悪いだろ、それは!」
「はいはい、文句なら後で聞いて上げるから。大人しくしなよ」
「やッ、だ、だって昨日もしたんよ!?」

わかってるだろうと言わんばかりのハオに、葉は慌てて状況を打開しようと叫んだ。二日続けてなんて、冗談じゃなく身体が持たない。が、葉は自分で口にした事実に自分で照れた。言っておいてなんだが、余り堂々といえる事柄ではない。頬の熱さが余計に生々しくて居た堪れなかった。
けれど、ハオは悶々とする葉の言葉をあっさりと覆したのである。

「何言ってるのさ、葉。こんな機会滅多にないでしょう?」
「えッ」

にっこりと例の喰えない笑みを浮かべたハオに、葉は思わず言葉に詰まった。
つまりアレか。福引きが当たったのは偶然としても、巧みな手練手管と日頃の猫被りで両親を懐柔し、二人だけで温泉旅行にいかせたのは業とということだろうか。
せっかくだから家族四人で温泉旅行に行こうという両親の提案を却下したのは、他でもないこの兄である。出発前日まで心配を滲ませ、二人のことを案じる両親を満面の笑みで送り出したのもこの兄だった。そんなハオを思い出し、葉はふらりと意識が遠退くのを感じる。
葉の様子からその心情を察したハオは、追い打ちを掛けるようにあっさりとその事実を認めた。

「いやだなぁ。まさか葉ってば、僕がなんの下心も無しに『二人で留守番してるよ』って言ったと思ってたの?」

心底驚いたようなハオの言葉に、完全にそう信じきっていた葉は何も言い返せなかった。
沈黙は即ち肯定でもある。がっくりと脱力した葉の無言の答えに、ハオは呆れたような溜息を着いた。相変わらず、自分の片割れは甘い空気というものに疎いらしい。

「まぁ、僕だってたまには葉と気兼ねなくいちゃいちゃしたいんだよね」
「い、いいいいちゃいちゃってお前なぁ!」
「何だよ、なんか文句でもあるの」

少しむっとしたらしいハオの言葉も、今の葉には瑣末な物だった。いちゃいちゃ。なんて破壊力のある言葉だ。単語の響だけでも恥ずかしくて憤死できそうである。居た堪れない気分に尚更拍車をかけられた葉は、咄嗟に両手で顔を覆った。

「とにかく、僕は時間を有意義に使いたいんだよ」

けれど、断言したハオに葉は思わず両手を顔から外して視線を向ける。
瞬間、柔らかく、それでも抵抗させる気がないのだと解る掌に腕を掴まれた。ハオは他人の抱く印象よりも、子供っぽくて寂しがり屋で甘えただ。葉のお願いに対しては限りなく甘い。けれど忘れてはいけないのが、その本質は我が儘で俺様で王様だということだ。
葉が本気で嫌がらなければ、ハオは決して引いてはくれないのである。

「だから」

顔を近づけられると、ふわりと甘い匂いがした。
赤みがかった茶色の瞳が真っ直ぐに葉を見つめてくる。普段は葉がハオの甘い態度に怯んだ隙を突かれ、嫌よ嫌よも好きの内とばかりに強行突破されてしまう。けれど、今回は珍しく例外らしい。構図としてはまさに補食者と獲物だ。強行突破されかけているのは同じだが、今日の兄はどこまでも強気だった。
強暴で甘ったるい牙を隠すのを止めたハオの張りつめた空気に、葉はごくりと唾液を嚥下する。視線を逸らした瞬間、喰い殺される。そんな空想が一瞬頭を掠めた。けれど、それは案外的外れな見解ではなかったらしい。
片割れから告げられた言葉は、ある意味いちゃいちゃよりも破壊力抜群な物だった。

「精々優しくしてやるから、とっとと素直になれよ。葉」



くるぶしから赤い薔薇が咲く



滴るように蠱惑的な笑みを浮かべたハオに、葉は自分の敗北を悟ったのである。

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8/5はハオさまGo!の日らしいので、イケイケハオさまでお送りしました。
何だか葉くんが初々しい。

2011.08.05

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