※学パロ
事後話なので、いかがわしい感じが苦手な方はご注意下さい。
短めです。


葉を抱いた後、ハオはなんだかぐるぐるする。
ぐるぐるというのは酷く曖昧だが、ハオにはそれ以上に適切な表現が思い浮かばない。
葉がどうしようもなく欲しくなって自分から行為を仕掛けるのに、受け入れられた後は何故かぐるぐるする。それは回転の鈍った頭の中だったり、心臓が忙しなく動いている胸だったり、情けなく鳴いた腹だったりと様々だ。今は身体中がぐるぐるし過ぎて、自分でもどうなっているのかよく解らなかった。
しかもそれが不愉快ではないことが、ハオを一層ぐるぐるさせる。隣で何も知らずに眠る葉が恨めしいのに、半面、酷く愛おしかった。カーテンの隙間から差し込む日差しが、暗闇に慣れた目に眩しい。
旅行好きの両親が頻繁に家を空けるのをいいことに、ハオと葉は自室で口に出来ない様な行為に耽る。
昨日も、そうだった。夜の薄暗さとほの淡い淫靡さを引きずった空気が、カーテンの隙間から差し込んだ日差しに緩く炙り出されていく。薄闇の中に隠されていた事実が朝日と共に明るみに出る度、ハオはやっぱりぐるぐるした。
葉のことが好きなのだから、この感情は当たり前だ。触れたい、と思うのも当然だろう。
そう開き直る半面、やはり何処かで糸が縺れてしまった様な気分になる。それはきっと、自分が葉も両親も好きだからに他ならなかった。背徳と恋慕。親愛と裏切り。板挟みになった感情に上手く折り合いをつけるのは、今のハオにとってまだ難しい。
面倒臭いな、と思う。
それでもなんとか自分の感情を放り出さずにいられるのは、葉の存在が大きかった。これも、実は酷く矛盾してはいる。ハオにこんな感情を覚えさせた張本人が、誰よりも自分を安心させているのだ。
ハオは、葉の顔に降り注ぐ日差しをそっと布団で遮った。ついでに、自分の腕の中へと片割れの身体を閉じ込めてみる。普段はハオと大差ない体温が、今は葉の方だけ僅かに高い。そんな微熱すら、昨晩の名残をハオに見せ付けてくる。お陰で、ハオはなんだかどうしようもない気分になった。
今回は、いつもより無理をさせてしまった。
自覚はある。そして更に正確に言うなら、普段より一層無理をさせてしまったというのが適切だろう。確か、葉は今日剣道場に顔を出すと言っていた。けれどハオが抱きしめた葉の目元には、色濃い疲労が滲んでいる。心なしか、顔色も余り良くない。こんな状態の葉に稽古をさせるわけにはいかないだろう。可哀相だが、休ませた方がいい。そう頭の片隅で冷静に判断したものの、ハオの内側はやっぱりぐるぐるする。
自分のした事が、結果的に葉の妨げになってしまった。
けれど、ここで謝るのは何かが違うとも思う。だからこそ、ハオは葉の髪を柔らかく梳くだけに留めておいた。謝罪の言葉は、きっと葉も望まない。

「…………好き、だよ」

代わりに唇から零れたのは、そんな台詞だった。
葉とするとき、ハオはいつも訳がわからなくなる。
ハオが葉を抱いている筈なのに、何故か行為の間は自分の方が蹂躙されている様な気分になるのだ。
それはハオが葉を夢中で求めたという事でもあり、葉がそんなハオを拒まなかったという結果でもあった。無理矢理身体を拓かせた訳ではなく、逆に葉からも欲されていた。お互いに望んで、したことだった。口づければ口づけ返され、抱きしめれば抱き返された。
その証拠に、ハオの身体には葉が残した朱色の痕がある。自分と葉の身体に散ったそれを改めて認識してしまうと、ハオはなんだか余計にぐるぐるした。

「……………はお」

やんわりと頬に触れられた事で、ハオの意識は思考の淵から急に引き戻された。
目の前には、とろんとした顔の葉がいる。愛しげに細められた亜麻色の瞳に見つめられると、やっぱりハオはぐるぐるした。胸の中がじわじわと滲んでいく。

「………おはよう、よう」
「はよー………あー…流石に腰ダルい。なんか、疲れた」
「うん、僕も疲れた。…身体、痛いところとかない?」

自分の体調を伝えてくる葉に、ハオは小さく問う。
これは、いつの間にか習慣づいた事だった。肌を重ねる行為は、どうしたって葉の負担が大きい。下手に無理をされて倒れられでもしたら、それこそハオは自分を許せなかっただろう。葉も、そんなハオの気持ちを何となく察しているらしかった。

「ん。でも、腹減ったな」

ふにゃりと笑う葉に、ハオも思わず笑い返す。
ハオに抱かれた後の葉は、何だかいつも幸せそうだ。元々ユルい空気が、尚更ゆるゆるとしたものになる。いつもあんなに無茶をさせるのに、怒られたことは一度もない。どうして葉がそんな風に笑うのか、ハオにはやっぱり理解できなかった。
けれど恋愛事に関しては、葉の方がハオよりも割り切っている部分が強いのだろう。そして色々な意味でぐるぐるしているハオは、ムードもへったくれもないこんな会話に、何となく救われる。

「じゃあ、ご飯食べる?」
「んー………なんつーか…あー……まだ、動きたくねぇ」

不意に葉が額を擦り寄せてきて、ハオは少しだけ困ってしまった。
葉の言葉は、身体がダルいから動きたくないという意味だけではない。そう判ったからこそ、ハオは余計にうろたえる。
一旦収まったはずのぐるぐるが、再びハオの中で渦巻き始めた。触れ合った素肌は温かい。

「………じゃあ、僕がご飯つくってくるよ。葉は寝てな」

ハオは思わず、葉の意図に気づかないふりをした。
葉がハオに望んでいることを考えると、胸の内側がくすぐったくて、いたたまれなくて、そしてぐるぐるする。そんな感情をごまかす様にハオが告げると、葉は不満げに片割れを睨んだ。

「お前、オイラだけほっぽってどっかいくんか」

なんでそんな、可愛いことばかり言うんだ。
不服と甘えを器用に混ぜ合わせた葉の言葉に、ハオは一層いたたまれなくなる。
おまけに、なんで上目遣いで見上げてくるのか。まさか態となのか。あとお互いの身体を更に密着させてくるのはなんなのか。葉は、一体何処でこんなことを覚えてくるんだ。否、この片割れの場合は、多分無意識なんだろう。けれど、だが、しかし。
葉の一挙一動に、ハオはやっぱりぐるぐるする。ぐるぐるを通り越して、なんだか頭も身体もぐちゃぐちゃになってきた。
もうどうしたらいいのかわからない。
葉に対する様々な感情を、ハオはいつも持て余す。頭の回転はそれ程悪くない筈なのに、葉を前にするとちっとも役に立たなかった。

「……どうせ、お前だって眠いだろ」

だから、傍にいろ。
そう言外にねだられて、ハオが葉の意志を無視できる訳もなかった。
結局、ハオは葉の身体へと回した腕にのろのろと力を込める。すると、葉が嬉しそうに瞳を細めて頭を預けてきた。ぴったりと寄り添う体温と嗅ぎ慣れた匂いに、ハオは頭も身体もぐちゃぐちゃになる。擦り寄せられた葉の頬が自分の肌を掠める度に、こそばゆい甘さがじわじわと胸を浸していく。
腕の中にいる葉が愛しくて、ハオはなんだか途方に暮れてしまった。



世界のせいにしてもいい



ハオに抱かれた後、葉はなんだかふにゃふにゃする。
身体は鉛の様に重い。腕を上げるのも億劫だし、疲れるし、眠くて眠くて堪らなくなる。ハオは手加減なんてものをしてくれないから、余計にだった。
けれど手酷く扱われる訳でも、無理矢理身体を拓かされる訳でもない。
葉に触れるハオの指先や唇は、何処までも優しかった。時折焦れったくなるくらいに、ハオは葉を丁寧に丁寧に抱く。だから、葉は自分の唇から女の様に甘い声音が漏れるのも、決して嫌ではない。羞恥は感じるけれど、ハオが葉の反応に焦れた様な熱を篭らせているのを知っているからだ。
ぐちゃぐちゃで訳がわからなくなっている葉にも分かるほど、最中のハオは葉以上にぐちゃぐちゃだった。それでも葉を傷つけまいと何やら必死に我慢しているらしく、ハオは好物をお預けされた犬のように、じっと耐えていることが多い。
だから、葉はハオに抱かれると、なんだかふにゃふにゃする。
気持ちも身体もどろどろに蕩けて、ハオを力いっぱい抱きしめてやりたくなるのだ。
可愛いだなんて言ったら、きっとハオは拗ねるだろう。けれど葉にとって、ハオはどうしたって可愛い奴だった。葉の為に悶々と悩んで、困って、それでも我慢出来なくなって葉を求めてくる。
そんな、可愛い奴だった。

「………うん。少し、寝ようか」

一緒に包まった布団のなかで、ハオが葉以上にふにゃふにゃの顔で笑う。
葉を抱いた後のハオは、いつも幸せそうだ。普段の硬質な雰囲気は影を潜めて、日向で寛ぐ猫の様な顔をする。
そんなハオがやっぱり愛しくて、葉は目の前の身体を力いっぱい抱きしめた。

===

幸せなのに悶々とするハオさまと、そんなハオさまを丸ごと受け入れちゃう葉くんの話でした。

2011.10.23

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