※学パロ
葉ハオっぽいですがハオ葉です。


「にいちゃん」

葉がそう口にしたのは、ほんの出来心だった。
はっきり言って大した意味はない。登校中に見かけた幼い兄弟の片割れが、「にいちゃん、にいちゃん」と嬉しそうに兄を呼んでいたのをみたから、少し気になって自分の兄で実践してみた。それだけのことである。
けれど、葉の目の前でコーヒー牛乳を啜っていたハオにとっては違ったらしい。
葉が昼食の弁当を突きながらそう口にした瞬間、ハオは飲んでいたコーヒー牛乳で盛大にむせた。おまけに液体が気管の変な所に入ったらしく、涙目になりながら激しく咳込んでいる。その原因を作ってしまった葉は、慌ててハオの背中をさすってやった。柄にもなくうろたえた兄の様子に、逆に葉の方がいたたまれなくなる。タイミングが悪かったらしい。

「ちょ、オイ、ハオ?大丈夫か?」
「ッは、や…うん、ごめ…ッ、へい、きッ…だよ」

今のハオの言葉は、いつもの5割増しで信憑性がなかった。
荒く上下する肩はちっとも平気そうじゃないし、赤み掛かった茶色の瞳には相変わらず涙の膜が張っている。葉はちっとも悪気がなかったのだけれど、何だか申し訳ない気分になった。

「いや、すまんな。そんなに慌てるとは思わなかったんよ」
「……別に、慌ててなんかいないさ」

どこがだ。
そっぽを向きながら拗ねたように告げるハオに、葉は内心激しく突っ込みを入れた。
感心半分、飽きれ半分の気持ちでハオを見遣る。意外と見栄っ張りで弱みを見せたがらない兄は、想定外の失態にご立腹のようだ。通常値だった機嫌は一気に低下の一途を辿っている。手に取るようにそれがわかって、葉は小さく溜息をついた。なんでこんなに意地っ張りなんだろう。辛いときくらい頼ればいいのに。
葉にはハオのこういうやせ我慢な部分が今一理解できない。

「おい、ハオ」
「…………」
「ハーオ、無視すんなよ」

葉が名前を呼んでも、むすっとしたハオはちらとも反応しない。眉間の皺はいっそ取れなくなるんじゃないかと思う程に深まるばかりだ。けれど、その耳の先が赤くなっているのに葉は気づいてしまう。態度や言葉に比べて、そこだけはやけに素直らしい。葉が口元に浮かべた笑みは、自然と柔らかいものになった。
まったく、素直なんだか素直じゃないんだか。

「…にいちゃん?」
「ッ!」

ふと悪戯心が湧いた葉は、件の台詞をハオの耳元で囁いてみた。
途端、その白い頬が鮮やかな朱色に染まる。まるで林檎のようだ。珍しいその光景に、仕掛けた方の葉がきょとんと瞳を瞬かせてしまう。けれど次の瞬間、葉は口元ににやにやと悪戯っぽい笑みを浮かべた。ああ、普段ハオのことを散々鬼畜だのドSだの言っていたけれど、自分にもこんな一面があったらしい。
やはり自分達は双子だ。

「なんよ、にいちゃん。どうかしたんか?」
「っ、何でもないよッ…な、なに笑ってるんだ!馬鹿葉!」
「馬鹿って言う方が馬鹿なんだぞー?」

葉がそらっとぼけて問えば、ハオは眦を吊り上げて声を荒げる。普段から飄々とした笑みを浮かべる兄の、こんな反応は純粋に珍しい。それが新鮮で、そして愛しくて、葉はけらけらと声を上げで笑った。涙の滲む真っ赤な顔で睨まれたって、ちっとも怖くなんかない。

「ウエッヘッヘッ、ハオも案外かわいいとこ有るんだな」

本格的に拗ねて自分へ背を向けたハオの首筋に、葉は背中からぎゅっと抱き着いた。
すりすりとハオの頬に自分のそれを擦り寄せれると、長くて柔らかい髪の毛が肌に触れる。くすぐったい。触れた肌越しに感じるハオの頬の熱に、葉の真ん中は尚更甘く解れていく。くすくすと甘い笑い声をあげると、たじろぐようにハオが小さく肩を揺らした。居心地悪そうな、けれど何処か照れ臭さの滲むその仕種に、葉の唇から再び笑みが零れる。
まさか、こんなに可愛らしい反応をされるとは思わなかった。可愛すぎてちょっとずるい。

「………今夜覚えてろよ、葉」

むすっと唇を尖らせたハオが、ジロリと横目に葉を睨んで来る。
いつもなら怖いはずのそれが、今はちっとも怖くない。むしろ切れ長の目尻が朱色に染まっていて、ちょっと色っぽいくらいだ。おまけに瞳は少し潤んでいて、葉の言葉に動揺しているのを如実に示している。だから葉は怯まない。反撃の効果は実証済みだからだ。

「なんよ、にいちゃんは可愛い弟に酷いことするんか?」

なんとか持ち直しかけていたハオは、葉の台詞に再び撃沈した。
相変わらず頬は赤いままだし、羞恥だか怒りだかでわなわなとハオの身体が震えている。そろそろ目尻に溜まった涙が零れ落ちそうだ。普段はなんのかんので性格以外非の打ち所のない兄の反応に、葉は悪戯っ子の様に微笑む。いつもハオが自分に対してかわいいと連呼する気持ちが、今なら少しだけ解るかもしれない。今のハオは、非の打ち所のない生徒会長でもなく、成績優秀で優等生な自慢の兄でもない。照れ屋で平凡な、葉の言葉に逐一反応してくれるただの可愛い人だった。

「にいちゃん」
「…ッ、い、いかげんに」
「オイラ、にいちゃんがだいすきなんよ」

珍しく声を荒げようとしたハオは、葉の一言で言葉を失った。
薄い唇はぱくぱくと開閉するだけで、そこからは何の音も生まれない。じわじわとハオの頬へと熱が競り上がる。唖然とした表情で自分を見つめてくるハオへ、葉が「金魚みてぇだな」と口にすれば、反論の代わりにぺんっと弱い力で額を叩かれた。
けれどハオの腕は、自分を抱きしめてくる葉を払いのけようとはしない。
いっそ清々しい程に解りやすい兄の反応に、葉は胸に溢れた擽ったさのままに笑った。

「にいちゃん」
「ッ、!」

囁けば小さく跳ねる肩が愛しい。
珍しく主導権を握れた葉は、いつものお返しとばかりに甘えた声で「にいちゃん、にいちゃん」と繰り返したのだった。



優しくて普通のひと



その後、その呼び方にある程度耐性の着いたハオが、葉に反撃を開始したのは言うまでもない。

===

ハオさまは多分やられ慣れていないので、物凄く不意打ちに弱いと思います。
そしてちょっとオロオロするとかわいい。

2011.08.04

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