嫉妬心


朝、起きると隣には誰も居なかった。
ベッドから降りてリビングに行っても誰も居なかった。
……家主が家にいないってどういう事だよ。

なんて思いながら自分の家のように知り尽くしたこの家のキッチンに立ってお湯を沸かして、冷蔵庫を開けて朝食を作る。
簡単な物しか作れないけど。


出来た朝食をテーブルに並べて淹れたての珈琲をマグカップに注いでいると、家主がやっと帰ってきた。
バスタオルを頭に被って、上半身裸で。

……なんだ、風呂に入ってたのか。



「祈李起きてたのか……」
「勝手にキッチン借りたけどよかった?」
「祈李ならいいよ」



憐はそう言うとキッチンの中に入ってきて2つ並んだマグカップの1つを取ってそれに口を付けた。
その流れるような動作をぼーっと見ていたら、憐と目が合った。



「ん? なに?」
「髪、拭かないのか?」
「祈李が拭いてよ」
「憐、背高いから無理」
「じゃあはい」



憐はそう言うと、マグカップを元の位置に置くと俺に頭を差し出すように屈んだ。
そんな憐を可愛く思いながらわしゃわしゃと拭いてやる。

……そう言えば、こんな時間まで何処に行ってたんだろうか……別にどこに行こうが勝手だけど、一言ぐらい言ってから行って欲しかった。
憐にだって憐の生活があるから全てを縛ることはしたくないけど……知りたいと思うのは普通の事だよな?



「……ねぇ、憐?」
「ん?」
「夜、何処に行ってた?」
「……祈李?」



俺の問いに答える事はなく、憐は俺の手を止めるとそのままの体勢のまま顔を上げて俺を見上げてきた。
俺は憐と目を合わせられなくて視線を彷徨わせていた。



「えっと……だから……その」
「なにが不安?」
「不安とかそういうのじゃない」
「違うのか?」
「違う」



憐の目を見て言うと、憐の目が思った以上に優しくて自分がやるせ無くなった。
俺の方が年上なのに……なのに憐の方が精神的に大人で。

なんで俺、こんなに小さいんだろう……嫌になる。



「憐はさ……」
「ん?」
「束縛とかしないよな」
「好んではしないな」
「不安になったり気になったりしないのか?」



こんな事聞いてなんになるんだ、って言われたら分からないけどどうしても聞きたかった。
俺は……憐になら束縛されたって良いって思ってるし、憐の事ならなんだって知りたいから。



「まったく気にならないって事はないけど祈李、休憩の時にメールしてきたり夜電話するだろ?」
「うん」
「俺はそれだけで今は十分だと思ってんだよ……祈李の時間を奪うわけにもいかねーしな」



憐のその言葉を聞いて、俺の中の何かが弾けた。
憐が動かないなら、俺から動けばいいって思ってしまった。



「………じゃあ」
「ん?」
「俺が憐の時間、拘束していい?」
「構わないが……?」
「じゃあ、今日と明日……学校休んで俺と一緒に居て」



身勝手だって言われてもいい。
たまにはいいじゃないかって……俺だって我儘言いたいし。



「別にいいけど……祈李、今日仕事じゃねーの?」
「休む」
「ふーん? ならさっさと飯食べよーぜ。温かいうちに」
「うん」



憐はそう言ってマグカップを2つ持ってテーブルに向かって行った。

……憐って、自分を優先する事ない、よな?
いつも俺や他の人を優先して自分の事は後回し。お人好しにも程がある。
だけど、そんな憐だから守ってやりたくなる。
……まあ、実際は守られてばかりだけど。



朝食を食べ終えると、憐が食器を洗っている間に俺は社長である父親に電話をして今日は仕事を休む事を伝えた。
理由を聞かれることもなくすんなりと承諾されて、少し驚愕したけどそれと同時に安堵した。
理由までは考えてなかったから余計に。

電話を終えると、俺はソファーに座って憐を待つ。
テレビを見るわけでもなくただじっと待つ。

キュッと蛇口が捻られ、水が止まったと思ったら足音が近付いてきて憐が隣に座った。



「んで? なにすんの?」
「暫く会えなくなると思うから、憐の愛を頂戴」
「今から?」
「うん……今日はベッドから逃がす気ないから」
「明日もあるのにか?」
「いいから行くの! 分かった?」
「まあ、祈李がいいならいいけど」



憐のその言葉を聞いて、俺は立ち上がって憐の手を握って引っ張った。
だけど体格差はあって、憐はピクリとも動かない。
だけど憐は俺に手を引かれるがままに立って寝室に向かう俺にちゃんと付いてきてくれる。

寝室に入って、憐にベッドに寝転んでもらって俺が憐に跨る。
いつもとは逆で変な感じだけど、憐から愛される前に憐を愛したい。
憐の事で俺がどれだけ不安になって縛りたくなって愛してるかを知ってもらいたいから。



「今日は祈李が攻めんの?」
「憐に俺がどれだけ愛してるか知ってもらいたいから」
「手ぇ出したら怒る?」
「怒る」



余裕そうな憐に、俺はその余裕を崩したくて唇を合わせた。
角度を変えながら触れ合わせる事を楽しみながらキスしていると、憐が先を誘うように俺の唇をペロリと舐めてきた。

……今日は俺のペースでヤるんだ。だから憐に主導権は握らせない。
そう思ってたけど、憐とのキスは気持ちいいから好きだったりする。
キスしてるだけで憐の愛で満たされる感じがすごく好きだ。

だから俺の唇を舐める憐に応えるように口を開いて舌を伸ばせば、ゆっくり絡め取られた。
憐は……主導権を俺に握らせてくれるみたいだ。
そう分かった俺は、憐がいつも俺にしてくれるように舌を絡ませて吸って感触を味わって、憐の全てを堪能するように舌を動かす。



朝飲んだ珈琲の味がするキス
少し強めに吸いつけば、憐はくぐもった声を漏らした。それが嬉しくて何度も何度も吸いつくと、憐に頭を撫でられて髪を絡め取られた。

薄っすらと目を開けて憐を見ると目が合い、熱いその視線に身体がドロドロに溶かされそうになった。
キュッと目を瞑り、キスに集中していると、憐の手が俺の両耳を弄びだした。



「んぅ、ふ……ぁっ…ぅ」
「ん、もう止めんのか? キス」



憐から与えられる刺激に、キスをやめて憐を睨むと憐はニヤリと笑ってお互いの唾液で濡れた俺の唇を拭うように撫でた。
耳、弱いの知っててやるからタチ悪い……



「手、出したら怒るって言ったの聞いてた?」
「聞いてた」
「じゃあ次、手出したら怒るからね」
「はいはい」
「……もう」



俺の言ったことを素直に受け入れて手を下ろした憐
そんな憐を見ながら首筋から下へとキスしていく。

そして右の鎖骨……龍の刺青が入ってるところにキスをすると今まで反応がなかった憐が変わる。
小さく吐息を漏らす憐の顔を見ながらそこにカプリと甘噛みをすると、眉間にぐっとシワが寄る。
そのまま舌を這わせると、耐えるように息を吐き出して俺を見つめて頭を撫でる。






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