◎ GAME
繁華街から少し離れた場所にあるBAR、zeepの入り口は少し奥まったところにある。
階段を少し降りた半地下で、入ってすぐの1階はみんなの寛ぎスペースで2階が個室。
全室防音で、ベッドと机のみの簡易的な造り。
「…なんか緊張」
「1年振りだからじゃね?」
「かもね」
久々に来るzeepは、なんだか別世界のよう。
少し前までは当たり前のように出入りしてたのにな。
「んじゃ、開けるぞ?」
「ん」
あたしの返事を聞くと、蓮人はzeepの扉を開けて中に入っていく。
それに続くようにあたしも中に入る。
すると、今までワイワイと騒いでいた所謂、不良と呼ばれる類いの人たちがシンッと静まり返った。
……気まずい
だけどそれを気にする事なくカウンターまで行くと、見慣れた人が出迎えてくれた。
「あれ、柚月ちゃん久しぶり。1年振りだね」
「悠人さん久しぶり」
コトン、と磨いていたグラスをカウンターの上に置きながらあたしに微笑みそう言うのは、ここzeepの店長でありオーナーであり、バーテンダーの悠人さん。
ここら辺に住む荒くれた不良たちを意図も容易く丸め込む寛大な心を持つ悠人さんは、zeepでは欠かせない人物だ。
「もう、柚月ちゃんの知ってる人そんなにいないでしょ?」
「うん。ほとんど知らないかも」
「幹部も変わったし、厨房も変わったからね」
「え?厨房も変わったの?」
あたしの好きなあの料理、もう食べられないの?
それはショックだな…
「そうなんだよ。幹部が抜けるのと同時にアイツ等も抜けてね。
ほとんど総入れ替えみたいなモンだよ」
「なんかちょっとショック」
「ははっ柚月ちゃん、アイツ等の料理気に入ってたからねぇ」
「ホントだよ」
もう食べられないと考えると、もう少し味わっておけばと思った。
なんであたし、1年も来なかったんだろ?
「まあでも、今のヤツらの料理は俺が保証するよ。
柚月ちゃんを満足させられると思うからね」
「悠人さんがそう言うなら食べてみたい、かも」
悠人さんがそう言うくらいだから、それなりに美味しいんだと思う。
だったら確かめないと、ね。
「じゃあ、今から用意させるからちょっと待ってて」
悠人さんはそう言うと、あたしにカウンター席に座るように言ってカウンターの奥にある厨房に入っていった。
だからあたしはカウンター席に座り、頬杖をついてzeepの今のメンバーを眺めた。
相変わらずあたしを見て固まっているけど、それでもさっきよりかは全然ましになった視線。
蓮人がすぐに奥の方に行ったのが残念だったけど、悠人さんのおかげで幾分柔らかくなったと思う。
ここは元々、女の子がこぞって来る場所じゃないからあたしが珍しいのか。
まあ、怪しがる気持ちも分からなくもないけどね。
「頼んで来たよ。何が出来るかはお楽しみということで」
「ありがとうございます」
悠人さんの悪戯な笑みに、あたしは笑顔で返す。
ああ、やっぱりzeepは気が落ち着くから好きだ。
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