数日前、私はずっと好きだった人に告白した。
青空颯斗、神話科2年で生徒会副会長。
生徒会会計補佐の私をいつも気にかけてくれる優しい人。

だけど、駄目だったと思う。
だって告白した時、颯斗先輩、困ったように笑ってた。
断られる、瞬時にそう思った。
だから颯斗先輩が何かを言いかけていたにも関わらず私はその場から逃げるように去った。

駄目だったんだ、諦めよう。
何度も自分に言い聞かせた。
なのに私の中の颯斗先輩を想う気持ちは消える所がますます大きくなる一方で。
何をしてても、頭にちらつくのは颯斗先輩の事ばかり。
もう限界だな、って思った。




「颯斗先輩…ごめんなさい」




誰に言うわけでもなく呟いた言葉。
私は今ある所へ向かっている。




"青空を探してるのか?青空なら音楽室に行くと言っていたが…"

龍之介先輩が教えてくれた颯斗先輩の居場所。
私は今からそこへ向かう。




コツコツコツ




廊下に響く私一人分の足音。
もうほとんどの生徒は下校したのか誰ともすれ違わないのが嬉しかった。
きっと、私ひどい顔してると思うから。




「ピアノの音…」




音楽室が近づくにつれ、段々聞こえてきたピアノの音に私は足を止めた。
とても綺麗な旋律なのに、胸が苦しくなるのは、今から私がする事の罪悪感からか。

音楽室の扉の前で私は立ち止まり目を閉じ、流れる音楽に耳を傾ける。
だけどうまく聞こえてこない、バクバクと大きな音を立てる鼓動が邪魔をしているみたいで。
手が震える。
私の中のもう一人の私が言う。

今ならまだ間に合う、やめろ、と。

だけど、もう我慢出来ない。
この気持ちに終止符を打つ為に後戻りなんて出来ないんだ。




ガラガラガラ




音楽室の扉を開けると、今まで流れていた旋律が止む。
そこには少し驚いた表情を浮かべる颯斗先輩だけしか居ない。
好都合と思う反面、本当にもう取り返しが付かなくなった自分の心に苦しくなる。




「無子、どうしたんですか?」

「は、颯斗先輩に用事があって…」

「そうだったんですか」




驚きの表情から優しい微笑みを浮かべる。
ズキッと胸の痛みが激しくなった事に気付かないフリをして私は颯斗先輩の居るピアノの横まで進む。




「ピアノ…」

「え?」

「ピアノ…弾いてくれませんか?」

「僕なんかの演奏で良ければ、いくらでも」




ふふ、と笑い颯斗先輩がピアノの鍵盤に指を置く。
私は邪魔をしないようにそこらへんの椅子へを腰をかけた。




「っ…」




颯斗先輩が弾き始めた曲に私は思わず、目を見開く。
この曲は…私が以前好きだと言った曲。
覚えててくれたんだ…。
嬉しさに目頭が熱くなるが、涙は流れてこなかった。

颯斗先輩は本当にひどい人。
私の事を好きでもないのに、私の心を惹きつけてばかりでずるい。
私を喜ばせるような事をしなければ、私は颯斗先輩に惚れる事もなかったのに。
颯斗先輩の奏でる旋律はさっき廊下で聞いたものよりもとても暖かく優しい音色。
それなのに、私の気持ちを諫める事は出来なかった。
寧ろ、もっともっと…颯斗先輩を好きになってしまった。









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