明くる日の昼。
この日は部活の仲間で昼ご飯を食べようと、皆で屋上に集まって輪になり弁当を広げていた。

そして昼ご飯もほぼ食べ終わり、私がお茶を飲みながら落ち着いていた、そんな時。隣に座っていた謙也が、おもむろに口を開いた。




「……なぁ白石、お前この前の大会でなんて呼ばれてたか知っとるか?」


「んー?」


「テニスの聖書(バイブル)やて」


「ブフッ!」


「ちょ、茶吹き出すなや!」




あ、いや、だって。
聖書だよ、聖書。そういや原作の白石がそんな呼び方されてた気がするけど、いざ呼ばれてみるとすっごく恐れ多い上に恥ずかしい。もはや羞恥プレイの一種だと捉えた方が精神衛生上いいのかもしれないと思うレベルだ。

それと最初に聖書とか言い出したやつに、私の試合の何処を見てそう思ったのか小一時間程問い詰めたい。切実に。



「白石クン、これ使ってや〜」


「おん、おおきに」



いきなりのことに思わずお茶を吹いてしまった私に、小春がさりげなくハンカチを渡してくれた。小春まじエンジェル。



「まぁ確かに凄かったからなぁ、あの試合」



うんうんと頷きつつ、謙也の話に便乗するユウジ。
……ていうか、君は見てたんだね。私の試合。



「ホンマか?俺は他の試合は見とってんけど、良くも悪くもいつもの白石やったで」


「まぁなー。せやけど、あの試合だけはホンマ別人みたいやったわ。神懸かっとったで」



おいお前ら。それっていつもの私のプレイは下手って言いたいのか。

……まぁ、事実だけども。



「で、どうしてあんなに急にプレイが変わったんや?」


そしていきなり核心をついてくる小石川。君はもう少し空気を読んでくれ。




「……よく覚えてへん」


「はっ?」


「よく覚えてへんのや、あの試合」




嘘じゃなくて、これは真実だ。
後半で意識が朦朧としてたってのもあるだろうけど、あの時の感覚ってのがいまいち思い出せない。まぁ、もしかしたら今日の部活で思い出すかもしれないけどね。
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