(あー、あかん。負けてまうかも) ここまでの第一試合、第二試合と快勝を収めて来た私だが、ここに来て強敵に出会ってしまった。 牧ノ藤学院。 私の朧気な記憶が正しければ、確か来年の全国大会で準優勝する学校だ。 しかも相手は二年生。なにこの酷いイジメ。 「なかなかやるやないか、一年のくせに」 「……おおきに」 ちなみに現在のゲームカウントは4−5。あと一セットでも取られたら負けてしまう状態。さらに、マッチポイント。 うーん、なかなか絶望的。 「まぁここまでよぉやったけど……しまいや!」 「……」 とはいえ、このまま素直にやられてやる気はさらさらない。 サーブが来る。手首の角度からしてサイド寄りのスライスかな。すぐにステップを踏んで追いかければ。 ほら、ビンゴ。 「まだまだ勝負は終わってへんで!」 相手の意表をついてのドロップショット。予想通り、相手の体勢が崩れてボールが浮いた。 そこですかさずポーチに出て、決める。 全て私の予想通りの展開だ。 正直、ここに来てまだ冷静にプレー出来ている自分に驚きが隠せない。それどころか、逆に終盤になるにつれて集中力が増して来た気さえする。体も軽い。 いつもなら緊張で手が震えてきてもおかしくないっていうのに。なんだか不思議な気分だ。 「――さぁ、デュースや」 とはいえ、ゲームカウントは4‐5。 今の私にこれ以上の失敗は許されない。 だったら。 失敗しなきゃいいんだ。 ――― 試合はまだデュース。再び相手のサーブからだ。 ……またスライスだね。もう、それは見飽きたんだけど。 「いくでっ!」 次の打球はクロスへ。今回は流石に相手もすぐに返してくる。 でも。 私がネットにつく方がずっと早い。 「はっ!」 相手が返したのは中途半端に浅いロブ。だから少しだけバックステップして、逆クロスにスマッシュを決めてやった。 積極的な攻撃プレイ。 的確なコントロール。 瞬時にポジションにつける判断力。 全てが今までの私には無かったものだ。 終盤に来て急に動きが変わった私に、相手も少し戸惑っているみたいだ。 「悪いけどな……この試合、勝たせて貰うで!」 今なら勝てる。 そう確信出来た。 |