side 謙也 「……白石?」 「……」 「……もしかして、泣いとるんか?」 「………っ! ……泣いて、へんわっ」 正直言って、かなりびっくりした。 やって、今まで監督にどんなこと言われても、どんな理不尽な練習を言い渡されても耐えてきた、あの白石が。 涙ポロポロ流して泣いとったんやから。 「色々厳しいこと言ってもうたからな。……ほんますまん」 「……ちゃうねん」 「えっ?」 「忍足のせいと、ちゃう」 始め泣き出した時は、どんなに罵倒されるもんかとヒヤヒヤしとったのに、いざ口を開いて見れば、白石は俺を責めることなんかせんかった。 多分。 今、白石は自分を責めとる。 いつだって、白石はそんな奴やねん。 この前かて、白石は他の一年が散らかしとったボールを一人で集めとった。 何で他の奴らにやらせんのやって聞いたら、俺が注意せんかったからや、なんてめちゃくちゃ言いよって。 なんやねん、それ。 そないなこと言うんやったら、この部活で起きた悪いことは全部白石のせいになってまうやんか。 なんちゅーか、子供らしくないねん。白石は。 今のかて、悪いのは完璧に俺や。 白石があまりに上手くなるのが早いもんやから、中学から始めた初心者っちゅーのをつい忘れてもうて、次へ次へと進めたくなってしまったんや。 その結果、白石を完全に追い詰めてしもうた。 馬鹿か、俺は。 「……俺な、こんな弱い自分が大っ嫌いや」 「……おん」 「……せやけど、これ以上逃げたくもないねん」 「……」 「だから、忍足。 俺はもう逃げへん」 なんで怒らんのや。なんで俺を責めんのや。お前の言うことはめちゃくちゃやって、なんで言わんのや。 なんで。 なんで、そないに強いんや。白石は。 ……ほんま、敵わんわ。 |