「白石!」 「……っ、」 やっぱり浪速のスピードスターには敵う訳もなく、数十秒後には私はあっさり捕まってしまった。 いや、ここは空気を読んで放って置いて欲しかったんだけどな。 「……白石?」 「……」 「……もしかして、泣いとるんか?」 「………っ! ……泣いて、へんわっ」 あああああっ!! バレたあああああっ!! そうだよ泣いてるんだよ!だから追いかけて欲しくなかったんだ、ちくしょう!! 「色々厳しいこと言ってもうたからな。……ほんますまん」 「……ちゃうねん」 「えっ?」 「忍足のせいと、ちゃう」 そう。 私が泣いてるのは、決して謙也のせいではない。 本当は、ただ怖いだけなんだ。 実を言うと、前世で私は生粋のダブルスプレイヤーだった。ポジションは後衛。 だから、いつだって私はコートを守ってさえいればそれで良かったし、点を決めるのは常にパートナーの役割で。私は、ただそれに甘えていた。 攻めることから、ずっと目を背けてきた。 しかし、今回の試合は全員シングルス。 つまり、こんな私を助けてくれるパートナーはいないということ。 だからこそ、私は変わらなくてはいけない。 でも。 果たして、前世の自分を越えることが出来るのか? それが、怖いんだ。 「……俺な、こんな弱い自分が大っ嫌いや」 「……おん」 「……せやけど、これ以上逃げたくもないねん」 「……」 「だから、忍足。 俺はもう逃げへん」 覚悟は、決まった。 |