今日も今日とて青学テニスコートは騒がしい。
部活に励む部員の活気に溢れる故──ではなく。
青学の誇る絶世の美少女にして男子テニス部無敗の王者、越前リョーマの追っ掛けである人間とその妨害者によって。


「とっととリョーマを出しやがれっつってんだろ。アーン?」


エントリーナンバー一番。
氷帝学園テニス部部長、跡部景吾。


「せやせや。自分のツラなん見たないわ。早よ姫さん出しぃ」


エントリーナンバー二番。
同じく氷帝学園テニス部の天才、忍足侑士。


「さっさと帰れ」


エントリーナンバー三番。
青春学園テニス部部長、手塚国光。
中学テニス界に於いて東京都内最強の二校の、それもトップたちによる睨み合い。
その気迫たるや一般部員たちを震え上がらせるものであった。
とはいえ、彼等の論点は何の事はない。
中学テニス界のアイドル、越前リョーマのアピール券を争っているだけ。
無駄に凄みのある三人だけに迫力は十分だが、内容は何ともはや。
ここに真田でもいようものならば問答無用の鉄拳制裁確定だ。
しかし、睨み合う人物が人物なため、誰一人止めに入る事が出来ない。
涙を飲み、震え上がる部員たちは、今日もまたまともな部活が出来ないのだと絶望に打ちひしがれた。


「ねぇ?取り込み中悪いんだけど。ちょっと質問していいかな?」


しかし、ここに思わぬ闖入者が。
ハッと三人の男を仰いだ部員たちの目には、彼等の不穏な空気をいともた易く突破し、尚且つニコやかに微笑みながら軽く右手を挙げた青年の姿が。
それは、青学の誇る天才、不二周助。
流石は天才。
あの空気を裂けるのは彼ぐらいだ。
普段は魔王だ悪魔だと彼を恐れていた部員たちだったが、この時に限り彼が天使に見えたとか。
現金だ。


「ンだよ不二。俺様は忙しいんだよ」

「せや。後にしぃ」

「練習に戻れ不二」

「大の男がよってたかってギャアギャア喚き立ててるだけでしょ?忙しいとか不戯気た事ぬかさないで?それから手塚?部活サボってる人間の筆頭である君にだけは練習に戻れなんて言われたくないんだけど?」


ごもっとも。
不二のニコやかな一蹴に部員たち全員が頷いた。
グッと言葉に詰まった三人に、不二が再びフワリと微笑む。


「解ったら質問、していいかな?いいよね?するからね」


疑問が決定事項に擦り代わるという事故が起こったものの、不二は気にしない。
ピッと人差し指を立て、三人を順繰りと仰いだ。


「ズバリ。リョーマ君の何処が一番好き?」

「腰」

「脚」

「項」


不二の問いに対し、跡部、忍足、手塚それぞれに即答。
瞬間、再び三人の間にバチッと火花が散った。


「アーン?女は腰だろうが。テメェらのインサイトはその程度か?」

「何言うとんの。脚やろ脚。自分ら阿呆かいな」

「項だ。日本の女の美を項なくして語るな」

「まぁまぁ」


バチバチと火花を散らす三人の間に不二が割り入り、クスクスと笑う。


「だったらリョーマ君の一番好きな部分を順番に、思う存分語ってみてよ」













エントリーナンバー一番。
跡部景吾。


「やっぱりあの腰だろ。アーン?あの括れは一朝一夕で身に付くモンじゃねぇ。普通の女ならシェイプアップだなんだと面倒くせぇ事して漸く身に付くモンだ。けどなぁ、アイツはアレが天然モンだ。これ以上ねぇ極上モンじゃねぇか。試合中にウェアから見えたあの括れ……。俺様のインサイトによれば、ウェスト57pってところか?鷲掴んで犯してやりたくなるじゃねぇか。あのなだらかなボディライン、最高だぜ?アーン?」


以上。













エントリーナンバー二番。
忍足侑士。


「やっぱ脚やろ脚。なんやのあのやらしい脚。足首むっちゃほっそいっちゅうに太股だけムッチリしよってからに。細っこい足首見とると鷲掴んで開かせとうなるし、ムッチリした太股ゆうたら噛み付きたなるやん。こう、犯したったら腰に脚絡ませてきよるやん?あないなやらしい脚に絡まれよったら敵わんで?──せや。そやゆうたら……ドライブBっちゅうたか?なんやのあのドライブボレー。誘っとんのかっちゅう感じやんか。やらしい太股チラ見せよってからに。あないにやらしゅうて別嬪な脚、見た事ないで」


以上。













エントリーナンバー三番。
手塚国光。


「やはり項だな。あの細い首筋。黒髪が更に色の白さを際立たせている。その上染み一つなく、きめ細やかな肌。汗が流れる様など思わず噛みたくなる。完璧なまでの美しさだ。艶美と言っていい。……痕を付けたならばよく映えるだろうな。色も白く、そしてあのなだらかなライン。何よりアイツは首が感じ易いらしいからな。以前菊丸が首を撫でた際に過剰反応していたのを見ている。項も美しく、更にはそこがウィークポイントともなれば言う事はない」


以上。






◆◇◆◇







「ふーん。成る程?」


三人それぞれの主張が終わり、相変わらずの微笑みを湛えた不二が一つ頷く。
解ったか、とばかりにふん反り返る三人の男。
しかし、はっきり言って彼等は自慢するべき事など何もしていない。
むしろ醜態を曝しただけに外ならない。
その証拠に三人の主張を零れ聞いた部員たちは呆れか落胆か、真っ白になっている。


「君達の主張はよーく解ったよ」


ニコッと鮮やかに不二が微笑む。
そして。


「──だ、そうだよ。リョーマ君」


誰かに語りかけるかのような不二の口ぶりに、ん?と三人が首を傾げた矢先。
右に身体をずらした不二の後ろ。
そこには、白い帽子が。


「……部長。跡部さん。忍足さん」


不二の背にスッポリと隠れていたらしいその人は、愛らしい声で三人を呼ぶ。
それは、三人が溺愛する美少女、リョーマその人のもので。
手塚、跡部、忍足の動きが止まり、目が見開かれた。
リョーマはと言えば、花も綻ぶような愛らしい微笑みをニコリと浮かべ、三人を見上げて小首を傾げる。
その手には──ラケット(左手)を持って。
そして。


「消えてください。むしろ、失せろカスども」


ニコちゃん。
満面の微笑みと愛らしい声で発された台詞。
同時に、黄色い球体が三つ、空に舞った。


──ドゴドゴドゴ!


「ふぅ。大石せんぱーい。粗大ゴミ出ましたー」


ラケットを肩に担ぎつつ、スタスタとコートに入るリョーマ。
鉛でも撃ったような音とともに頭部を強打された三人は、ご臨終だ。


「はい。残念でした」


死体三つを見下ろし、不二の笑顔は酷く爽やか。
そしてクルリと踵を返し、さっさとコートの中へ。
コートの隅で大石が腹を抱えて倒れた気がしたが、いつもの事。
鼻歌でも口ずさみかねない不二が、上機嫌にリョーマの隣へと歩み寄った。






◆◇◆◇







教訓。
フェチズムは本人に知らせるなかれ。






END


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