俺様の女。





越前リョーマ。





こいつに苦手なモンはねぇのか?





◆◇





検証その一……ナンパ。


「ねぇねぇ〜。俺たちと遊ぼうよ〜。」

「キミみたいな可愛い子一人で待たせるような男やめてさぁ。」


リョーマとのデート。
珍しくこの俺様が時間に遅れた。
っつってもそれは俺様のせいじゃねぇ。
忍足のヤローがリョーマとのデートなんざ許せねぇとかホザいて邪魔しやがったせいだ。
アイツ……明日覚えてやがれ。
……まぁ忍足暗殺計画は後々練るしてだ。
十分ほど遅れて待ち合わせ場所の駅前に来てみりゃ、何とも胸糞のワリィ場面に遭遇。
アーン?
俺様のリョーマをナンパするとはいい度胸じゃねぇか。
野郎二人連れか……。
ハッ!
骨の二、三本へし折るくれぇ楽勝だな。
そう息巻いて近付いた矢先。


「アンタらウザイ。キモいし息臭いし。鏡見たことあんの?」


……………あ?
思わず踏み出したまま硬直。


「んなっ!テメェ!下手に出てりゃいい気になりやがって!」

「その態度のどこが下手?っていうかその顔の面積から言って堂々とし過ぎなくらいだと思うけど?」


おい……。
おいリョーマ……。


「ウザいからとっとと消えてくんない。気分悪くなる。」


そういう場面は彼氏が助けるべきなんじゃねぇのか?


「んだとこのガキ!」


っつうかあの(顔の形が)四角形野郎!
俺様のリョーマに手ぇ上げる気か!
ふざけん…………


「いるよね。口で敵わないからって手上げる奴。……でも、そういう人間ほど………」

バキッ!

「実は弱いんだよね。」


………………。
蹴りやがった。
野郎がじゃねぇ。
リョーマが野郎をだ。
脇腹に膝蹴り一発。
……おい。
気絶してんぞ……。


「さて。アンタも構ってほしい?」


問い掛けたリョーマにビビり、生き残ってやがった野郎が逃げていきやがった。
……俺様の出番がねぇじゃねぇか……。


「あ。景吾。オレを待たせるなんていい度胸してんじゃん。ファンタ一週間ね。」


ピッと指を立てて突き付けてきやがる。
その足の下には……気絶したさっきの野郎。
……踏むなよ。


「何してんの。行くよ。」


なんでテメェは飄々としてやがんだ。
おかしいだろ……。


検証一、否定。









検証二……お化け屋敷


「ふわぁ〜あ。何か暗いとこ入ると眠くなるよね。」


……ならねぇよ。


「あ。ドモ。」


何ちゃっかりお化け役相手に頭下げてんだテメェは!
ここはお化け屋敷だろうが!


「あ。河童だ。ねぇ。皿触っていいっスか?」


何河童と仲良くなってんだテメェは!
しかも河童も皿触らしてんじゃねぇ!


「ねぇ景吾。腹減った。さっさと出よ。」


お化け屋敷だよな……ここは……。
俺様の目が確かなら……風景……グロいよな……。
それで……腹減った……?
お前……ぜってぇ変だろ。


「あ〜!やっぱ外のほうがいいや。お化け屋敷って眠くなるからあんま好きじゃないんだよね。」


好きじゃねぇ理由はそこか!?


検証二、否定。











検証三……雷。


ゴロゴロゴロ


「へぇ〜。結構近いじゃん今回。雷どの辺にあんのかな。」


さっきから窓にへばり付いてやがるリョーマ。
そんな後ろ姿を見て、一縷の望みを掛けて聞いてみる。


「なんだ?雷が怖ぇのか?アーン?」


するとチラリとこっちを一瞥して。


「全然。ってかオレ雷好きだし。綺麗だよね、稲光。」


……期待した俺様が馬鹿だったぜ。


検証三、否定。









検証四……虫。


「今日さ、教室にゴキブリ出たんだよね。」

「アーン?」


ポリポリとポッキーを食いながら思い出したような口調。
その中にある単語に思わず眉を顰めた。


「ゴキブリだ?ふん。青学の清掃員は使えねぇな。」

「……清掃員いないから。」


いねぇのか?
学校にゃ普通いんだろうが。
……まぁいいか。


「で?ゴキブリが出てどうしたんだよ。」

「うー。そん時オレ寝ててさ。周りがギャーギャー煩くて起きちゃったんだよね。だからムカついててさ。」


新たなポッキーを手に取って、口許でポキリ。


「ティッシュ五枚くらい引っ掴んで握り潰したんだよね。」


…………は?


「にぎ……な……何を潰したっつった?」

「ん?だからゴキブリ。したら周りの奴等また騒ぎ出したしさ。ホント今日は寝れなくて最悪だったんだけど。」


…………にぎ…………。
コイツ……やっぱ普通じゃねぇ……。


検証四、否定。











検証五……高所恐怖症


「リョーマ。あんま囓りついてんじゃねぇ。落ちんぞ。」

「だって綺麗じゃん。こういうの絶景っていうんだよね。」


デートで来た遊園地。
観覧車の天辺で窓に齧り付くリョーマ。
……いや、喜んでくれんのはいいんだけどよ。


「お前怖くねぇのか?」

「んー?全然。寧ろ高いトコ好きだし。」


……こいつも撃沈かよ。


検証五、否定。











検証六……強姦


「っや……めろ!」

「リョーマ!」


目の前で三人の野郎に覆い被さられてやがるリョーマを前に歯噛みする。
助けにいこうにも俺様を羽交い締めにする二人の下衆が離しやがらねぇ!


「くそっ!テメェ!離しやがれ!!」

「大人しくしてろよボク〜。」


腕を外させようと暴れた瞬間。

ゴッ!

「っ!」


野郎の一人に横っ面をぶん殴られちまった。
予想外の衝撃で抵抗を忘れちまった。


「そうそう。大人しく彼女ちゃんが食われるとこ見てなさいよ〜。」


ゲラゲラと笑い始めた奴等に拳の力を握る。
……殺す。
コイツらだけはぜってぇコロ…………

ドギャッ!

……………は?


「な!何しやがるこのアマ!」


リョーマが……男を……吹っ飛ばした……のか……?


「……何しやがんだはコッチの台詞だよ。人の男の横っ面ぶん殴ってくれちゃってさ……。景吾は顔だけがウリなんだけど。」


おいコラ。
今聞き捨てならねぇこと言わなかったかテメェ。


「大人しくしててやれば調子に乗っちゃってさ……。オレ……怒ったんだけど。」


リョー……マ?
お前……目付き……変じゃねぇか……?


「空手合気道柔道剣道有段者ナメんな。」


あぁ!?


バキッ!

ドゴッ!

メシャッ!


「ったく。まだまだだね。」


ぜ……んいん……ノしちまいやがった……。


「そこのお兄さん。景吾離してくんない?じゃないと……オレ怒るっスよ?」

「ひっ!」


間抜けな声を上げて逃げて行く野郎。
漸く自由になった俺様……。


「大丈夫?アンタ顔だけが取り柄なんだから。」


ちょっと待て。
まさか俺様……女に助けられたのか!?
……マジかよ……。


「ほら。早く飯食に行こうよ。久し振りに護身術なんか使ったから腹減った。」


こいつ……変だろ……。


検証六、否定。











「なぁ。テメェ苦手なモンなんかあんのか?」

「は?何いきなり。」


上記七つの通常の女が怖がるもの候補は、全て撃沈。
となりゃやっぱ直接聞くしかねぇだろ。


「ねぇのかよ。」

「ない。あるわけないじゃん。」


即答かよ。
確かにコイツが怖がるモンなんざ思いつかねぇけどよ……。


「あ、ねぇ。イルカこっち見た。」


俺様たちは今、都内にオープンしたばかりの水族館にいる。
リョーマはさっきから水槽に釘付けだ。
……可愛いじゃねぇか。


「ねぇ。イルカショーあるんだって。行こうよ。」

「あぁ。いいぜ。」


この後開催されるらしいショーを知り、リョーマは小走り。
ちきしょう……食っちまいてぇ……。
急かすように走っていたリョーマの後ろに付いて歩く。
……が、不意にリョーマが止まる。
文字通り、ピタリと。


「あ?どうしたよ。」


何かあったのかとリョーマの隣に追いついてみれば。
リョーマは目を見開いてある一点を見てやがった。
その方向を見てみれば……。


「イルカの……ぬいぐるみ……。」


この水族館のイメージキャラクターらしき巨大なイルカのぬいぐるみが。
尾ひれで直立に立ち、クリクリとした目のソイツが、イルカショー入口にいた。


「これがどうし……」

「景吾。やっぱイルカショーはやめよ。うんそうしよ。あっちにクラゲ館があるって。エチゼンクラゲってのがいるんだってよ。きっと仲良くなれるからオレ。」


俺様の言葉を遮って矢継ぎ早にまくし立てては回れ右。
様子が変だ。


「おいリョーマ。」

「エチゼンクラゲ元気かなー。きっとオレと気が合うよね。エチゼン同士だし。なんか仲間意識沸いて来た。早く行こう。エチゼン同盟成立だー。」


棒読みだぞオイ。
なんなんだ?


「お前どうした?何か変じゃねぇか?」

「どこが?オレはいつも通りだけど。全然普通。イルカのぬいぐるみだろうがサルのぬいぐるみがあろうがオレには関係ないし。元気はつらつオフコース。」


グッと親指をたててきやがる。
けど……お前……。


「顔引きつってんぞ。」

「気のせい。景吾、老眼鏡行き決定。」


なんだ?
何でコイツこんなに焦ってんだ?
すげぇここから離れたそうだしよ。
イルカのぬいぐるみ見てから態度が変……


「……おいリョーマ。」

「なっ……ナに。」


声裏返ってんぞ。
……ってことは……やっぱ……。


「……お前……ぬいぐるみが怖ぇのか?」


ビシッ!


あ。
固まりやがった。
図星か。


「な……ナニ言ウテルデスカ。おれ日本ゴ苦手。ワカラナイ。I don't know。」


冷や汗スゲェぞ。
……当たりか。


「ほ〜。こんなもんが怖ぇのか。アーン?」


ぬいぐるみの頭をポンと叩いてリョーマを見れば、硬直したまま直立不動。
やべぇ……反応が新鮮だ。


「こ……怖くないっ!苦手なだけ!」


懸命に弁解。
あんま意味変わんなくねぇか?


「そ……その目が苦手なだけ!だから怖いんじゃない!」

「あ?目?」


言われてぬいぐるみの目を見下ろせば、クリクリとした円らな瞳が。


「コレか?」

「そ……そうだよ!」


コレが怖ぇのか?
ゴキブリもお化けも怖くねぇコイツがか?


「……何でだよ。別に怖かねぇだろ。」

「怖くはないけど嫌だ!」


必死に頭を振ってぬいぐるみから視線を外す。
そして。


「だって寝る時に枕元に置いといたりしたらジッと見られてる感じするじゃん!飾っといたってジッと見てくんだよ!?嫌じゃんか!」


…………………は?
 

「今にも動き出しそうだし!いっつも笑ってるし!怖いじゃんかぁ!」

「おっおい!」


何でそこで泣くんだテメェは!


「解った!解ったから泣くな!」

「見てるーっ!イルカぁ!」

「見てねぇから泣くな!」


見てんのはイルカじゃなくて従業員だ馬鹿野郎!


「イルカぁ!オットセイ……見てるぅ!」


売店のぬいぐるみもかよ!


「解った!こっから離れっから泣くんじゃねぇ!」

「うーっ!みんな見てるーっ!ふわぁぁん!」


あークソ!
何で俺様がこんな目に!!





◆◇◆






こうして。
リョーマの苦手なモノが発覚した。
だがしかし。
この後泣きわめくリョーマを連れた俺様は奇妙な目で見られ、落ち着いたリョーマに罵詈雑言を捲し立てられたことは、言うまでもねぇ。











俺様の女。





越前リョーマ。





アイツの苦手なモンが解ったその日





俺様は二度とリョーマにぬいぐるみを近付けねぇことを





誓った。



-END-


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