誰にだって苦手なものってあると思うんだ。
僕にとってのそれは、本当に切実に苦手なもの。
天敵なんだよ。






◆◇◆◇







麗らかな晴天の昼時。


「ねぇ」


平凡な学生の昼休み。
屋上にて弁当を広げる三つの背中。
そのうちの一つ──最も小柄なソレが、不意に声をあげては二人の視線を呼び寄せた。
呼び声に応えて少女を振り返った二人──不二と手塚が少女──リョーマの琥珀を見詰める。


「なに?」


弁当を突く手を休めた二人の男。
三人で円を作って食べていたのだから、必然的に隣り合わせた二人が揃ってリョーマを仰ぐ形となる。
向けられた蒼玉と鳶色。
その二つを眺め遣って、鮮やかな琥珀が卵焼きを一つパクリ。
そして、爆弾投下。


「二人って付き合ってんの?」

「げほっ!」


投下された──むしろたたき落とされた爆弾発言に、不二の気管が勢いよく噎せた。
ゲホゲホと涙を浮かべて背を丸める不二だが、飲んでいた林檎ジュースを噴出しなかったのは流石と言える。


「どうしたの不二先輩」

「ゲホっゲホゲホッ……けほっ」


悪びれなく不二の背を摩るリョーマが、怪訝に眉を寄せる。
何故そこで不思議そうな問いを寄越せるのか、それこそ不二が聞きたくなった。


「はぁ……ねぇ……リョーマちゃん?……僕と君の関係は?」


イガイガする喉を絞り、涙目で振り向いた先には怪訝な顔の少女。
リョーマは不二の問いに対し、一度パチリと瞬き。


「恋人でしょ?」

「うんそうだね。僕と君は恋人同士だよね。で?さっき君はなんて言ったの?」

「『不二先輩と部長は付き合ってるんですか』」

「いやいやいやいやいやおかしいでしょ。明らかにおかしいでしょ。疑問にすら思えないぐらいおかしいでしょ」


不二の問いに正確な答えが返ってくる。
が、返ってくるからこそ余計におかしい。


「僕は君と付き合ってるの。そこで他のヤツと付き合うわけないでしょ?っていうかまず何で手塚?男だし。男に突っ込む趣味ないし」

「え?不二先輩が女役でしょ?」

「当たり前だ」

「気色悪い事言わないで!手塚も同意しない!否定してよ!」


完全に、二対一状態。
飄々とする二人を相手に言い募るけれど、結局は暖簾に腕押し状態だ。


「そもそもなんでそんな発想が生まれるの。……君……腐女子じゃないよね……」


ガクリと肩を垂らして反論を休止した不二が、ジトリと疑いの目をリョーマへ。
男同士の恋愛をこよなく愛する変態集団は、実は不二の天敵であったりする。
それを知ってか知らずか、リョーマはケロリと首を振って見せた。


「まさか。それは小坂田と竜崎と華村先生だよ」

「………………あいつらか……ッ!」


どうやら本人は違えど周囲に腐女子が多いらしい。
グッと拳を握った不二の殺意が、三人へと向かったのは言うまでもない。


「竜崎がさ、不二先輩って下手な女より美人だから絶対男にモテるって。で、小坂田も不二先輩が部長と仲いいから絶対デキてるって。言われてみればそれっぽいなぁと」

「何処をどう見てそうっポク見えたの!?」

「えー部長も不二先輩ならイケるっしょ?」

「あぁ」

「頷くな!認めるな!このバイッ!」

「俺は造形が悪いものは食わん」

「誰が君の好みを聞いたの!ってか食うとか言わないで!気色悪い!」

「あーお邪魔なら俺消えるけど?」

「君が全ての元凶で諸悪の根源だけどお願い行かないで!」

「え……公開プレイ?」

「なんで本番突入確定してるの!?」

「なんなら貴様も加えてやろうか」

「んー……また今度」

「加えるな!リョーマちゃんも止めて!っていうか本気で助けてくだサイッ!」

「あ、部長。ゴム使う?」

「いらん」

「ナマ派なんだ?」

「誰か助けてー!英二ー!大石ー!タカさーん!」


不二の悲鳴とともに、遠くで昼休み終了のチャイムが鳴った。













屋上に続く階段に、怪しい影が二つ。


「新鮮なネタが入ったわね……」

「でも……不二先輩逃げちゃったね?」

「本番までもう少しだったのに……。こうなったら華村先生に相談ね」

「うん!新刊、間に合うといいね!」

「リョーマ様に協力してもらうとネタがいっぱい手に入るもの。大丈夫よ!」


怪しげな影は、一路階段を下る。
新たな野望(妄想)に胸を膨らませながら。






◆◇◆◇







──二ヶ月後──


青学の文化祭にて売り出された薄い本。
塚不二やら忍跡やら真幸やら、デカデカと表紙に印刷されたそれらは瞬く間に売れ去ったのだとか。
その後、不二と幸村と跡部によって腐女子撲滅計画が立ち上がったらしい。






不二とリョーマの、そんな幸せで楽しい学園ライフ。




-END-


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