乾いた肌にたっぷりの水分。
下地は薄めでオーケー。
小鼻の周囲にコンシーラーで肌より少し明るい色を乗せて軽く指先で叩けば、瞬く間に肌と馴染んでいく。
お次はコンシーラーと同色のファンデーション。
馴染ませるようにうっすらと。
仕上げにお粉を軽く叩けばベースメイクは完璧。
そして難関の目元へ。
キラキラのラメを含んだベースを瞼全体に乗せ、お次はブラウンとダークブラウンを軽く混ぜ合わせたオリジナルカラー。
シャドウは控え目がポイント。
ビューラーをライターで炙れば百円物が即席ホットビューラーに大変身。
睫毛をゆっくりと挟み込んで持ち上げればカールの出来上がり。
アイラインは薄めで十分。
睫毛と睫毛の間を埋めるように塗ればパッチリ目許がお目見え。
うっすらとダークブラウンで眉の形を整えれば、綺麗なカーブが目元を柔らかく演出。
仕上げはマスカラ。
クルリとしたカールを根本から梳いてやれば、パッチパチのお目目が完成。
頬にはピンクと肌色を混ぜたチーク。
クルクルと内側に向けて叩くのが決め手。
最後に無色のリップを唇に。
プルプルになった唇へは淡いピンクのグロスを塗って更に唇美人。



女の子だけが使える魔法は如何?






◆◇◆◇







「菜々子さん……。楽しんでない?」


顔中くまなくいじくられ、うっすらと半目を向けるリョーマの微かな抵抗の意。
ウキウキと化粧ポーチを引き寄せる従姉妹に、げんなりと深いため息。


「だってリョーマさんお肌綺麗なんですもの。羨ましいじゃないですか」


二十歳過ぎたらこうはいかないんですよ、と。
メイクの手直しとして肌をやんわり包む菜々子の手。
ファンデーションを馴染ませるためらしいが、その手の目的がリョーマの肌を楽しんでいるようにしか思えない。


「リョーマさんは肌も綺麗だし可愛らしいですから、ナチュラルメイクで十分ですものね。リキッドアイライナーも使わずにこんなに綺麗にいくなんて、少し妬けちゃいます」


クスクス笑う菜々子に眉をピクリ。
クレヨンのようなもので散々目の周りをいじくったクセによく言う、と。
内心に深いため息を吐いたリョーマは知らない。
ペンシル型が使えるのは本当に目の大きな人だけだということを。
目を大きく見せるなら色の濃いリキッドがベスト。
それが必要ないという事はそれだけ元が整っているという事なのだが、生憎メイク云々に疎いリョーマには理解しがたい事だった。


「さて、お次はヘアメイクですね。コテも温まりましたし」


ウキウキとした菜々子に髪を梳かれ始め、リョーマの顔にはそろそろ疲労。
いつになれば終わるのかと、色素の薄い猫目が時計を見上げた。
待ち合わせまで、あと一時間。


「綺麗なストレートですから。根本はアイロンで毛先だけ内巻きにしましょうか。……うーんでも巻髪も捨て難いですね。あ、でもアイロンとヘアスプレーでもっとサラサラにするのも……。アップにするのは勿体ないですし……」

「…………」


もう、なんでもいいから早く解放してくれ。
溜息とともに願いを吐き出せば、髪に熱が触れた気がした。
髪型は決まったのだろうか。
鼻歌混じりの菜々子を背に、再び視線を時計へ。
待ち合わせまで、あと五十分。













白いミニワンピには淡い花が咲き乱れ、肩口から花を包むニットのボレロ。
吐き慣れないミュールは涼やかな空の色。
背を揺れる髪はサラサラと風とともに靡き、一本一本が柔らかな軌跡を残していく。
すれ違う人が幾人も振り向くけれど、走る少女に気付く余裕はなく。
白いファー付きバックから取り出された携帯の表示に、スピードアップ。
待ち合わせ時間は五分前。
タイムオーバー。
目的地は目の前。
不機嫌顔で壁に凭れた男を見付け、脚はソチラに。


「ご……めん……」


乱れた息のまま男の前に脚を止めれば、一度眉を跳ね上げた男が目を見開いた。


「菜々子……さんに……捕まっ……た……」


息の合間に理由を告げても、男は固まったまま。
文句を言うべき口は固く引き結ばれて一言も発しない。


「アン……タが……悪いん……だからね」


デートだと知られなければこんな事にはならなかったのに。
この男が不用意に従姉妹に口を滑らせたから。
むくれた頬のまま男の腕に絡み付けば、漸く男が回復。
伸びてきた大きな手が、髪を一房耳にかけた。


「ま、俺がここまで玩具にされたんだから。今日はたっぷり甘やかしてもらうよ」


悪戯に笑ってやれば呆れたように眉を垂らしてため息を吐かれた。
けれど、同時に頭に乗せられた手が髪の感触を味わっていく。
それは了承の合図。
いつもより柔らかい雰囲気の恋人に、知らず緩む口許。
微笑みかければ唇が降ってきた。
チュッと可愛らしいリップノイズを立てて離れた接触。
見れば男の唇にもラメ入りの可愛らしいグロスがほんの少し移り住んでいて。
そのおかしさに、思いっ切り笑ってやった。






◆◇◆◇







女の子だけが使える、とっておきの魔法は如何?






-END-


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