越前リョーマと遠山金太郎。
東と西のスーパールーキー二人が付き合う仲になったのは、全国大会終了当日。
それからは東京と大阪に別れ、電話やメールなどによるやり取りを比較的頻繁に交わすようになった。
そして、それはそんな日常の一コマ。






◆◇◆◇







夜八時半。
学校から帰宅し、風呂や夕食を済ませてまったりと出来始める時間帯。
最近になって、リョーマには日課が出来た。
この時間帯になってする事。
告白した覚えもなければ、された覚えもない恋人──らしき存在──からの連絡を確認すること。
今日も今日とて不在着信が一件。
見れば携帯のディスプレイに踊るのは、見覚えのある文字。
そして、ここ一ヶ月近く見続けたせいで軽く暗記してしまった電話番号。
苦笑とともに、着信履歴の最上部に点滅する文字をクリック。
続いて携帯を耳に宛てればお決まりの機械的なコール音──ではなく、流れてきたのはカ●道楽のCMソング。
何処から仕入れてきたメロディコールなのかは知らないが、そのセンスは如何なものかと思うリョーマだ。


『──シマエー!』

「……ちゃんと繋がってから喋んなよ」


微妙なメロディが途切れたと思えば、キンキンとした声が受話器を割る。
冒頭部分が欠けて届いた通話は、ボタンを押すと同時に喋っていたせいだろう。
余談だが、リョーマの携帯の受話音量は通常より小さい。
手塚の声など聞き取れないぐらいのボリュームで設定されている。
理由は毎日通話する相手の声が、無駄にデカいから。
賢明な判断であると言える。


『あんなー今日なー』


至極楽しげな遠山の話は、大体が近況報告や美味しいお店の話。
内容など皆無な物が殆どではあるが、相槌を打つリョーマの表情は比較的柔らかい。
普段ならば脈絡のない話しや興味を持たない会話には無頓着なリョーマだが、遠山相手となると話が変わる。
何だかんだと、リョーマ自身も遠山に好意を寄せている証拠だ。


『ほんでなーワイ誕生日四月一日やんか。せやからワイ産まれた時な、オトン嘘やと思たらしいんや』

「あぁ。お前エイプリルフール産まれだっけ」


気付けば話題は誕生日の話。
遠山との会話ならば話題の二転三転は珍しい事ではない。
ベッドにゴロリと横になりながら携帯に耳を傾けるリョーマも、変化していく会話を楽しんでいる。
四月一日という誕生日故に仕事に出ていた父親に嘘だと勘違いされてしまったという逸話。
遠山の父も母も中々にユーモア溢れる性格なため、あの二人ならば有り得るとリョーマが小さく笑いを零した。


『せやからコシマエ!子供産むんやったら四月一日はアカンで!ワイ嘘やと思うてまう!』

「……あのな……」


本人は至って真面目に言ったのだろう台詞に、リョーマの笑いは苦笑と呆れに取って変わった。
本当に遠山の話題は何処に転がるか検討も付かない。


「そういう事は子作りのやり方覚えてから言うんだね」

『へ?子供てキャベツん中おるんちゃうん?』

「……お前、畑の中から泣き声聞こえてきた事あんの?」

『せやかてオカン、ワイはキャベツから産まれたゆうてたで!』

「信じるなよ」


畑から産声が上がったらそれこそミステリーだろうに。
そんな事すら鵜呑みにしてしまう遠山だからこそ、面白がってある事ない事吹き込む人間がいるのだろうけれど。


「まだまだだね」

『なんやのー!子供はキャベツから産まれるんちゃうんかー!なぁコシマエーッ!』


中学生の恋愛だし、何より距離もあるから不可能ではあるのだが。
遠山と所謂“そういった”関係になることは、まず有り得ないだろう。
想像も出来ない。
失笑を零すリョーマが、騒ぐ遠山の声を機械越しに聞きながら微かに肩を竦めた。













「なぁ白石ー」

「ん?どないしたん金ちゃん」


一夜明け。
四天宝寺テニス部の一角で、白石の袖を引っ張る遠山。
快活な眉はショボンと俯垂れ、騒々しいまでの声は覇気もなく。
見るからに様子の異なる後輩へ、白石が腰を屈めてその顔を覗き込んだ。


「何や、なんかあったん?」


ポンと包帯に覆われた手で赤髪を撫でれば、遠山の目がウリュと潤む。
そして。


「なぁ。子供ってどないに作るん?」

「………………………………は?」


ピシリと。
白石の手が止まる。
ついでに顔までも固まる。
問い掛けられた言葉の意味が、一瞬理解しかねた。


「……………なんやって?」


白くなりかけた頭をフル稼動させ、問い掛けを確認せんと問い返す。
聞き間違いではないかと、一縷の望みをかけて。


「せやから子供や!どないしたらコシマエとワイの赤ンぼ出来るん?」


今度こそ、白石の手は遠山から離れた。
そしてその手は額へ移動。
俄かに痛み出した頭を押さえながら、俯く白石蔵ノ介15歳。
答えに窮するように引き結ばれた口許と寄せられた眉間の皺は、答えを知らないからではなく。
当然、知っていての反応だ。
推察するに、白石の気分は子作りの仕方を問う幼児に答えあぐねる母親だ。
遠山も中学一年生。
教えても問題はない気もするが、なんとなくそれが躊躇われるのは遠山の性格故だろうか。


「なぁなぁ白石ー」


クイクイとジャージを引っ張る遠山に更に頭痛は増す。
ここはその場凌ぎに当たり障りない嘘で誤魔化すべきか。
それとも年齢的に教えておくべきか。
まるで親のような心境で頭を悩ませる白石。
きっと彼は将来良い父になるだろう。


「あー……いや……その……な……」


真剣に見上げてくる遠山の視線を感じながら、白石の頭脳は益々混乱を極めた。
どうするべきか。
どうするが最良か。
答えあぐねながら意味のない呻きを零している白石。
そこへ、到底歓迎しかねる救いの手が齎された。


「金ちゃん」

「あ!千歳ー!」


カランと奇妙な音とともに遠山の背後に立った陰。
大きな体躯を屈めて遠山を見下ろす人物は、四天宝寺が誇る無我マニア──千歳千里。
ニコやかな笑みを浮かべた千歳が遠山の頭をポンと叩く。
その笑顔のあまりのキラびやかさに、白石の顔がヒクリと引き攣った。


「金ちゃん。子作りは────」






◆◇◆◇







『コシマエ!赤ンぼ作るんは鼻からカボチャ出さなアカンねやて!』

「…………ある意味間違っちゃいないけど色々間違ってるよ。ってかスイカだし」

『ワイ頑張るでー!』

「…………お前が頑張るんだ」




まだまだ先は長そうだ。






END


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