blind
─7─





「意外に早かったじゃん」


カタリとした音とともに開かれた扉へ、勝ち気な声が降る。
昏倒した男が、二人。
その傍らに悠然と佇む少女は、材木の一つを片手に瞳を細めた。


「こんな事だろうと思ったんでな」


ジャリと砂を噛む音とともに、扉から身を滑り込ませた手塚が嘆息した。


「少しは待つという事は出来ないのか?」

「えー?最初は大人しく捕まっててあげたけど?犯されそうになったから、反射的に」


ジェスチャーを交えつつ『こう……』とリョーマが蹴りの描写。
ピクリと手塚の片眉が釣り上がり、倒れ伏す男二人を睥睨した。


「ま、未遂だけどね。足縛られてたから解かせようと思ってさ」


ン、と縛られたままの両手を示して見せる。
細い腕を戒める革製の手錠は酷く異質だ。
再び顔を歪めた手塚へ、リョーマが苦笑。


「ま、足が自由ならどうとでもなるし。それより……」


プラプラと手を振って見せたリョーマが、手塚が姿を現した扉に向かう。
その奥からは、派手な喧騒。


「随分派手にやってるね。仁王さんと柳生さん……はバックアップだしね。跡部さんも。ってことは忍足さん?それとも不二先輩?」

「両方だ」

「うわぁ。ご愁傷様。ミンチになってないといいね」

「殺すなとは言ってある」

「死ななきゃいいって問題じゃないと思うけど?」


肩を竦めたリョーマが、手にした木材を放る。
ガランと乾いた音が異様な大きさで響いた。
ンッと両腕を上げて筋を伸ばす。
その様は、まるで猫の様。


「さって。じゃ、そろそろ行こ。ここ狭いし臭いし湿気凄いし。さっさと帰ってシャワー浴びたい」


クルリと手塚を仰ぎ口端を吊り上げて。
呆れたような手塚の溜息も知らぬ顔。
腕の拘束などまるで頓着なく、扉へとリョーマが近付いていく。
そして今まさに捻ろうかという刹那。
それは一瞬早く開け放たれた。


「わっ!」


予想外に開いたドアに驚きの声を上げたリョーマが、一歩足を引き下げた。
開かれた扉の向こうには、手に手に得物を持った男たち。
ザッと、二十人。


「……なんか、めちゃくちゃ大歓迎?」

「そのようだな」


数歩後退したリョーマの傍らに手塚が加わり、酷く億劫げな溜息を吐いた。


《テメェら!逃がしゃしねぇぞ!》

《このガキだけでも捕まえろ!》

「なんか如何にも悪役な台詞言ってない?アイツら」

「三流雑魚だからな」


口々に喚き散らす男たちを前にリョーマが呆れ果てたような口調で手塚を仰ぐ。
吐き捨てるように応えた手塚は、眼鏡を外しポケットへ。


「ま、確かにあぁいう捨て台詞吐く悪役って雑魚だよね」


クツリとリョーマが笑みを零す。
同時に、群がる男たちが一斉に室内へと雪崩込んだ。


「……雑魚が」

「スイッチ入ってるよー国光」


舌打ち混じりの手塚へ、リョーマの揶揄。
と、その頭上に、影。


《おるぁぁぁっ!》


雄叫びとともに振り下ろされた鉄パイプ。
リョーマを狙ったそれが一瞬、艶やかな黒髪に鈍い影を落とした。
しかし、本当にそれは一瞬。
振り下ろされた鉄パイプが空気を裂く音を響かせるよりも早く。
ニヤッと口端を吊り上げたリョーマが、地面を蹴った。
縛られたままの両腕を振り、遠心力を利用して身体を捻る。
そして右へと一歩踏み込み。


──ガッ!


「さっきも別の奴に言ったけど。俺、強いよ?」


右足を軸に男の腹を蹴りあげる。
ニッと再び笑みを浮かべて呟いたかと思えば、蹴った男から後ろへと飛び退る。
そして、両手を床に付けて着地。
そのまま一息も付かず腕を軸に背後に向けて両足を蹴り上げた。
リョーマの後ろに振りかぶっていた男が、醜い声を上げて吹き飛ぶ。
両足によって顎を二回に渡り強打された男は昏倒。
その余波に浮き上がったリョーマのスカートが、フワリと緩やかに沈んだ。


「こういう日に限ってスカートだもんなぁ俺。アンタのせいだからね!国光!」

「知るか」

「アンタが昨日俺のズボンにぶっ掛けたからでしょ!洗濯モンのトコでアンタが盛るから!」

「中に出すなと言ったのはお前だ」

「ゴムぐらい付けんのは男のマナーで……しょっ!」


叫び散らすリョーマだが、手を休める事はなく。
傍らに迫った男を一人蹴り飛ばした。
タンッと床を蹴り上げ、そのまま囲む男の一人へと跳躍。
立てた膝で男の顔面をメシャッと踏み潰し、両手で男の髪を掴んで離れると同時に脇に迫った別の男に放り投げる。
フワリと再び着地したリョーマが、クスリと艶美な笑みを零した。


「ま、いっか。アンタたちも勉強になったんじゃない?タダ見は、高く付くってさ?」


サラリと黒髪を揺らし、微笑む。
スラリとした脚がスカートから覗き、カツッと革靴が鳴った。


「さて。次は、誰がイかせて欲しい?」


傍らに転がった鉄パイプ。
蹴り飛ばされた男の一人が転がした代物。
リョーマの脚がガッと端を踏み付ければ、クルリとソレが跳躍。
狙い澄ましたようにリョーマの頭上へ。
ヒュンと空気が裂ける音が鳴り、鈍色の凶器は愛らしい掌へ。


「かかってきなよ。アンタら全員、相手してやるから……さ?」


薄紅の唇が、淫靡な様でネットリと舐め上げられた。


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