blind
─6─





「さって」


ザッと靴が砂を噛む。
ニッと口角を吊り上げた不二が見据えるは、打ち捨てられた廃屋。
元は何かの店だったのだろう。
外観からでも内部がそれなりの広さである事が判る。
仁王の調べでは、ココはガラの悪い奴らの巣窟であるらしい。
まぁ如何にもと言えば如何にもだ。


「行こっか。忍足君」

「しゃあないなぁ」


ヒョイと肩を竦めた忍足を引き連れ、不二がクスリと笑う。
仁王の情報は信頼に足る。
どれだけえげつない方法を使ったかは知らないが、過去の経験からそれは確かだ。
となればリョーマは必ずココの何処かにいる筈。
ギィと重い音を立てて開いた元自動ドア。
現在は手動ドアだが。
本来はシャッターが下りているだろうソレは、仁王によって既に開け放たれている。
恐るべし、といったところだ。
散らばった硝子片や埃塗れの砂を踏めば、ジャリと音が鳴った。


《誰だ!》


奥から怒声とともに男が飛び出してくる。
如何にも『俺、悪いです』的なセンスの服装。
自然二人の口から溜息が漏れた。


「……あそこまであからさまなのってどうなの?」

「えぇんちゃう?ツッコムんも面倒臭いわ」

《何ゴチャゴチャ言ってやがる!》


日本語での二人の会話に痺れを切らしたのか、男が怒声を張り上げた。
見た目通り頭は悪いらしい。
名札要らずで、ある意味合理的な格好なのかもしれない。
男の怒声に釣られ、奥から続々と男が姿を現す。
そのどれもが『俺、悪いです』コーディネート。
素晴らしい統一感と言えるだろう。


「……幾ら積まれたかてあないな格好絶対嫌やわ」

「右に同じく」


苦笑する二人を、男たちがグルリと取り囲む。
中には鉄パイプを持った者も。


《にぃちゃんよぉ。デートなら余所でやんな。彼女が痛い目みるぜぇ?》

「……………」


間延びした口調で綴られる英語。
ピクリと、不二の眉が跳ね上がった。


「ねぇ忍足君。にぃちゃんってどっちの事かな。彼女って誰かな」


ユラリと不二が笑顔を忍足に向ける。
おどけたように、忍足が肩を竦めた。


「さぁなぁ。本人に聞いてみたらえぇんとちゃう?」


クルリと不二が忍足から取り囲む男たちへと向き直った。
顔には、満面の笑顔。


《ねぇ?彼女って、誰の事?》

《何言ってんだよネェちゃんよ。アンタしかいねぇだろうが》


不二の問いに、男が卑しい笑みを浮かべて。
ピシリと、不二の額に青筋が走ったのを、忍足は見た。
瞬間。


《ぎゃっ!》


蛙を踏み潰したような声。
何事かと音源を見遣った男たちの視線の先には、行儀良く、そして姿勢正しく直立する男が一人。
その身体には、ピアノ線に似た細い糸が幾重にも。
それは男の身体を締め付け、そして不二の指先へ続き。


「誰が女だって?」


ニコやかな笑顔のまま指先に嵌めた指輪を軽やかに揺らめかせ、そこから伸びる糸の群れを操る。
グエッと、再び男から呻きが漏れた。


《このクソアマ!何して──》

「おっと。邪魔したらアカンで?」


走り寄ろうとした別の男を、忍足がその身で以て遮る。
その手には──医療に用いるメス。
不二が、フッと瞳を細めた。


《僕ね、縛るの得意なんだ。だから、さ。お強請出来るまで、イかせてあげないよ?》

《ぎゃぁっ!》


縛り上げられた男の隣にいた男から、新たな悲鳴。
慌てて不二を取り囲まんとした男たちだが、それらもまた忍足によって阻まれ。
甘やかなマスクが艶美に微笑んだ。


「焦ったらアカンで?ちゃぁんと自分らも構ったるわ。たっぷり突いたるで?シナプス焼き切れるっちゅうぐらいに、ヨぅしたるわ」


キラリと、忍足の手元からメスが煌めいた。
男たちの数は、ザッと十数人。
対するのはたった二人であるが、はっきり言って不二と忍足の足止めにもならない。
艶美な笑みを一閃させた二人が一歩を踏み出した直後。
幾つもの悲鳴が木霊した。


《君達はみんな、僕がイかせてあげる。勿論、天国に……ね?》

「たっぷり啼かしたるで?えぇ声出しぃ?」


下手をすれば勘違いを招き兼ねない台詞を吐きつつ、二人は派手に立ち回る。
堂々と後にドアを潜った人影を、視界の端に見送りながら。


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