blind
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救いようのない阿呆と莫迦はどこにでもいるもので。
それこそ無駄に偉そうな態度で踏ん反り返っている奴ほどタチが悪く莫迦な奴が多いのだと。
リョーマはそう思う。
なぜ彼女が唐突にこんな考えを巡らせているか?
答えは単純明快にして明瞭簡潔だ。
今この瞬間、現在進行形にてその莫迦野郎どもの被害に遇っているからだ。


「っ……」


唇の端がジンジンと疼く。
抵抗した際に殴られた傷が、僅かな血臭を鼻孔に届けてくれて酷く気分が悪い。
後ろ手に括られた手首が、革手錠に擦れて痛い。
ついでに言えば足も同様だ。
もっと言えば、そんな不自由な体制で転がされているために身体の下敷きになっている右肩も痛い。
はっきり言って全身痛い。
なぜこんな状況にあるのかと言えば、説明は一言で済む。
“誘拐”されました。
以上。
何とも解り易く的確な答えはこれに限る。
理由も既に明白。
リョーマの恋人、手塚国光だ。
彼は現在プロのテニスプレイヤーとして世界中を転戦している。
リョーマもプロ転向を決めているが、まだ十七歳。
ハイスクールを卒業してからとの周りの説得により、来年度の卒業式を待つ段階だ。
そして、問題の手塚。
プロ転向三年目にして破竹の十三連勝。
エントリーされたトーナメントはほぼ総舐めに近い。
侍南次郎の再来と噂される快挙ぶりだ。
そんな彼が次に参戦するのが、企業によって開催されるトーナメント。
全米や全豪など、グランドスラムに関与する大会ではないが、アメリカで名を馳せた企業の主催らしく注目度は中々高いらしい。
その大会には幾人かのプロもエントリーされているらしく、難易度もそこそこ高いことが予想される。
しかし、手塚の敵ではない筈だ。
今現在最も好調なプレイヤーを止められる者は、恐らく世界のトッププレイヤーかそれに準ずるプレイヤーくらいのもの。
何の問題もないだろうと思われていたその大会に。
思わぬ落とし穴が用意されていた。
それが、今回リョーマを誘拐してくれやがった莫迦野郎殿も参戦していたという事。
そしてそういう奴に限って妙に粘着質で優越感が大好きだったりするのだから、目も宛てられない。
つまり、リョーマを返して欲しくば次の大会で不様に負けやがれコンチクショー、と。
更には調子に乗って金まで手塚に要求してくれたらしい。
リョーマからしてみれば、はっきり言って怒り沸騰……訂正、怒り心頭だ。
ただでさえ他人のお荷物扱いされるなど真っ平だというのに、よりにもよって手塚の足枷にされるなど冗談じゃない。
犯人の唯一の誤算と言えば、リョーマだろう。
このような状況に放り込まれれば普通は怯える。
それこそ震えて泣き叫ぶほどに。
しかし、リョーマは普通じゃない。
時としてそれが最強の剣にもなり、最悪の欠点ともなり兼ねないが、ともかく常軌を逸しているのだ。
何がって?
思考回路が、だ。


「……ぜってぇ……泣かすっ……!」


怯えるより先にキレる。
恐れる前に潰す。
これが越前リョーマという少女だ。
不自由な手をワナワナと震わせ、手塚が決断を下す前になんとか犯人をノす、または潰す、または自分が逃げ出すか何かしなければ。
因みに最後の選択肢を選んだ場合でもその後の犯人への報復は決定事項。
女、というよりもリョーマを怒らせると恐ろしいのだ。
取り敢えず当面の問題は、この手枷やら足枷やらをどうにかすること。
ギッと食いしばった唇の奥で、脱出兼犯人フルボッコ計画を練り始めた。



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