歯が皮膚を刺す感触が離れ、生暖かいモノがそこを滑り始めたはその直後。
拘束が緩んでもなお顔を上げないリョーマの感心は、既に手塚の首元にのみ。
熱を持った首筋にペロペロと滑る舌の感触。
熱中しているらしいリョーマを好きなようにさせながら、手塚の視線は天井を仰ぐ。
そうして、微かな笑みに酷薄な唇が揺れた。


「……なに笑ってんの」

「気は済んだか」


気付けばリョーマは顔を上げ、その瞳に浮かぶ明らかな胡乱。
ジトリと細められた訝りの琥珀を受け、しかし手塚の返答は素気なく。
問いに応える気配のない手塚の態度に、リョーマが益々に怪訝を深めた。
なにかまたよからぬ事でも企んでいるのでは、と。
しかし手塚に応える心算はないようで。
無骨な手はリョーマの髪を梳き、黒髪を指先に遊んではそのまままろい頬へ。
愛でるように滑る掌に、一瞬だけ琥珀がトロリと心地よさ気に緩んだ。


「……ん。満足」


そうして、手塚の掌に懐く。
ゴロゴロと音でも聞こえてくる錯覚。


「これ、首輪ね。アンタは俺のって」


既に手塚の笑みに対する疑念は消失したらしく、自らが付けた傷痕を指先でなぞる。
その顔の嬉しそうなこと。
フッと漏れた声は、手塚の唇から。


「首輪なら、俺よりお前のほうが似合うだろう?お前は俺の猫だからな」

「なにそれ」


首をなぞる細い指が無骨な手に囚われ、薄い唇に招かれる。
低い美声が告げる反論に、リョーマの唇がムッと尖った。
瞬間、再び世界が反転。
モフッとマットレスが吐く空気が、リョーマの耳朶を掠めた。


「いつも鳴いているだろう」


揶揄の色も鮮やかに、手塚の顔がリョーマの視界から消えた。
次いで少女が捉えたのは、首元に走るチクリとした痛み。
そうして反論を口にするより早くその唇は、甘ったるく美しい音を奏でる赤い凶器に食われた。


「……いまさらだ」


微かな囁きは、渦巻き始めた官能の熱に焼かれて消える。
手塚の背に回された指先が、キリと爪を立てた。






◆◇◆◇







体を重ねるたびに増えていく痕。
きっと、気付かない。
白磁に残る痕の数は、俺の背に刻まれた傷の数。
だが、追いつかない。
そしてまた増える君の痕跡。
背に感じる痛みのたびに沸き上がるのは悔しさか、歓喜か。
首輪をかけたのは、その細い指先。
先に染められたのは──俺のほう。






-END-


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