二人が、ステージの中央に立った。


「──お集まりの皆様。一つご報告があります」


そしておもむろにリョーマの手がマイクを掬いあげ、会場へ一言。
一斉にステージへ向けられる視線。
しかしリョーマは怯む事なく。
幼げなその容貌を柔らかく、そして穏やかに綻ばせた。
幸福そのものを、形にしたかのように。


「俺、越前リョーマと跡部景吾は今この時、皆さんの前で、婚約します」

「……………は?」


リョーマの言葉が、マイクを通じて会場に響き渡る。
その内容の衝撃に、会場が一気に騒然となった。
けれど衝撃を受けたのは何も会場の招待客だけじゃない。
当事者たる跡部も、何が起きたのかと唖然と固まっている。
あまりにも寝耳に水な宣言。
婚約など、跡部は一切知らない。
いったい何事か。
優秀なはずの跡部の頭は、しかし恋人のあまりに唐突な宣言に完全な思考放棄。
目を見開いて硬直する跡部を振り返ったリョーマの顔は、あの勝ち気で高飛車な笑み。
クスリと零れた笑みは悪戯に、そして楽しげに。


「どう?俺からの誕生日プレゼント。アンタに“越前リョーマ”をあげるよ。代わりに二ヶ月したら──」


“跡部リョーマ”を頂戴。
囁かれた言葉は、甘く柔らかくほろ苦く。
漸く回りはじめた跡部の思考回路。
巡る感情や思考の中、跡部はまず目の前の少女を抱き寄せた。


「……俺様の見せ場を取るんじゃねぇよ。こういうモンは男から言うもんだろうが」

「ご愁傷様」


笑みの混じる抗議に、クスクスと鈴を転がすような悪態。
ステージの中央で抱き合う二人に注がれる祝福の言葉、落胆の溜息。
チラリと跡部の目が会場を横目に見渡せば、真っ青な顔をして震える美鈴がいた。


「ざまぁ、って感じ?」

「あぁ。せいせいしたぜ」


クスクスと額を合わせて笑い合う。
すると、何処からともなく沸き上がる拍手。
二人同時に顔を上げれば、会場を割るばかりの拍手の渦。
その先頭には、跡部の両親の姿。
至極楽しげな両親の顔に、跡部の顔が苦虫を噛み潰した。


──アイツら……知ってやがったな


リョーマの計画を事前に知っていなければあんな顔にはならないだろう。
つまりはリョーマと両親はグルだったらしい。
底意地の悪い奴らだ、と跡部の美貌が苦笑に染まった。


「……リョーマ」

「ん?」


抱きしめた少女を見下ろす跡部の顔は、酷く穏やか。
視線が絡めば、穏やかなソレが甘く綻んだ。


「──愛してるぜ」






◆◇◆◇







一年に一度だけ。
誰にでもある有り触れた記念日。
けれど、今年からは無二の記念日に変わる。
誕生の祝福を告げる日に、新たな人生の幕開けを。
二人の指に互いの証が飾られるのは、もうすぐ。




-END-


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