生徒に限らず教師までが蒼白な顔で巨大モニターを見上げる。


『喜んでくれ。今日もまた、素敵なイベントが開催されるよ』


喜べるかっ!
全校の心が一つになった瞬間だ。


『今回のタイトルは……これだ』


と、モニターの画面が切り替わる。
幸村の姿が消え、ポップな字体が画面を占拠する。
そこには。


“ドキッ!本物だらけのホーン・デッド・スクール☆”


ピンキーな色で描かれた文字たち。
と言うか、“デッド”?
“テッド”ではなくて?
ビクビクと怯える数多の生徒たちの中。
画面そのままに、再び幸村の音声が入り込む。


『今回のイベントは肝試しだ。ルールは簡単。お化けや妖怪たちに捕まらずに校舎から脱出出来た者が優勝だよ』

『優勝賞品は豪華世界一周旅行。宿泊ホテルは世界一流シェフを抱える四つ星ホテル。飛行機やクルーザーも一緒に優勝者に贈呈されるよ』


幸村の説明の傍ら、不二の声が割り込んでくる。
優勝賞品の豪華さに、一瞬生徒や教師たちが色めき立った。
今回は簡単そうじゃないかと。
誰もがそう思った。
しかし、甘い。
キングダムの催しに、簡単な物などある筈がない。


『因みに、お化けや妖怪は俺と不二が用意した』

『本場から来てもらった本物だから、捕まらないように気を付けてね?連れて行かれたら帰ってこれないから』


ビシィッ!
瞬時に、全ての人間が凍り付いた。
“本物”とはどういう意味だろうか。
まさか……まさか……。


『『さぁ、ゲームスタート!』』


いっそ晴れやかなまでに宣言された開始の合図。
瞬間、校舎内全ての電気が落ちた。
それだけならばまだいい。
しかし。


「えぇっ!?何で外真っ暗!?」

「今昼間だよな!?」


窓の外まで真っ暗。
しかも空には真っ赤なお月様。
もはや魔術としか言いようがない。


「ギャ─────ァァァ!!!!」


ドタドタと慌ただしく教室から走り去って行く生徒たち。
ゲーム開始。













「いやぁ、流石白石だね」

「名案だったよ」

「おおきに」


コロコロと微笑む不二と幸村に、白石も楽しげに紅茶を啜る。
阿鼻叫喚の地獄絵図さながらな校舎の中、生徒会室は相も変わらず優雅なティー・タイムを続行中。
リョーマの切り分けたダークチェリーパイを口に放り込み、不二が何処からかリモコンを取り出す。
ピッと赤いボタンを押せば、ガコンと何かが外れる音。
同時に、ウィーンという稼動音が鳴り響き、壁が開いた。
そこには数十台のモニター。
映し出されているのは、逃げ惑う生徒や教師たち。


「全く。悪趣味な方々ですね」

「お、しかし柳生。面白いぜよ。見てみんしゃい」

「フム。今回は人件費は必要ないな。幸村と不二の知り合いだからな」

「うん。生け贄を十人くらい用意してくれれば」

「あぁ、後は奴らを還す時にゲートを開く場所も必要だな」

「了解した。用意しよう」


優雅なティー・タイムに似つかわしくない会話が飛び交う中、つい先程奇跡の生還を遂げた忍足が酷く疲れた溜息を吐く。
リョーマの淹れた紅茶に唇を濡らし、頬杖を付いてモニターへと視線を寄越した。


「生け贄て……」


もはや誰の耳にも忍足の声は届かなかった。


「んっ……ャ、て……かさ……ァんッ!」


代わりに耳に届くのは、悩ましい声。
自然と音源を辿る面々の目に映ったのは、手塚の膝の上で震えるリョーマの姿。
モニター鑑賞の傍ら、膝に座らせたリョーマの制服の裾から手塚の手が潜り込んでいる。
そして、胸元に蠢いているナニか。
小振りな癖に感度のいいリョーマの胸を、手塚の無骨な手が揉んでいる。
止めようとしているのか、手塚の腕に縋り付くリョーマの瞳は既に陶然と蕩けて。


「はッ、ゥん……んっ!ふ……」


その直後、口に突っ込まれた手塚の指。
擽るように上顎をなぞられ、舌を引っ掻かれて淫猥な水音が響き渡る。
閉じられない口端から溢れた唾液が、ツと白い喉を伝って落ちた。


「テメェ手塚!俺様のリョーマに何してやがる!」

「跡部。生きていたのか」


壁際から跳び起きた跡部を、真田が僅かな感嘆を篭めて呟く。
アレでよく生きていられた物だとアールグレイに唇を濡らした。


「黙れ。これは俺の物だからな。俺が何をしようと俺の勝手だ」


フンと嘲笑しながら手塚が俄かに膝を持ち上げれば、ビクッとリョーマの身体が跳ね上がる。
湿り気を帯び始めた秘所が圧迫されたせいであることは、疑いようもない反応だ。
ギリギリと悔しげに奥歯を噛む跡部に、しかし突如絶叫が木霊した。
何事かとモニターを見遣れば、無数の半透明な人間に囲まれて震える生徒の姿が。


「あぁ。アイツら捕まってもうたなぁ。ご愁傷様や」


カラカラと笑いながら合掌する白石。
と、幸村が隣のモニターを指し示す。


「見てご覧。コッチも面白いよ」

「わぁ。大当りだね、彼。ルーシー君に会えるなんてラッキーだよ」


幸村の示すモニターには、黒いローブに巨大な鎌を掲げ持つ髑髏が一人の男子を追い掛けている映像。
至極楽しげな二人に跡部もまたモニターを見遣れば、成る程確かに面白い事になっている。


「ルーシー君とはどなたなのですか?」

「ん?魔界のルシファー君。僕たち仲良しだからルーシー君て呼んでるんだ」


ルシファーとは確か、魔王の名ではなかっただろうか。
魔王と仲がいいとは何事だろうか。
疑問には思うものの、突っ込むことはしない。
命は大事にするべきだ。
と、その直後だ。


「─────ッ!!!!」


ビクッと大きく身体を震わせたリョーマが、声なき悲鳴を迸しらせた。
何事かと再びソチラを仰げば、口から引き抜かれた指先を名残惜しげに舐め上げ、クッタリと手塚に寄り掛かるリョーマ。
唾液に塗れた指先をペロリと舐めた手塚が、クッと低い笑いを漏らした。


「もうイッたのか。他人がいて興奮でもしたか?」

「そ……なこと……」


恥じらうように頬を染めたリョーマが、ポスリと手塚の肩に顔を埋める。
何も言わないで、と哀願する代わりにフルフルと頭を振るう仕種は、愛らしい。
しかし、元がサディストの手塚の事。
そう簡単にリョーマの望みを聞き入れる筈もない。


「違わないだろう。それとも、イッていないとでも言うつもりか?これだけ濡らしておいて、どの口が言う」

「やッ!さわっちゃ……ダメぇ!」


閉じた足の隙間から忍び入れた手で、リョーマの下着をなぞる。
しっとりと濡れたソレにリョーマが嫌々と首を振るうが、そこは手塚。
鮮やかに無視。
他の生徒会の人間の前でよくもまぁ恥ずかしげもなく。
などと常識的な感想を抱く者は皆無。
良くも悪くも常識外れな者たちしか存在しない生徒会だ。
喘ぐリョーマを眼福とばかりに眺める者ばかり。
もはや肝試し大会を気にかける者は一人もいない。
全員が興味をそそられるのは、リョーマの痴態のみ。
逃げ惑う生徒たちは、哀れな絶叫と悲鳴を上げては気絶したり手当たり次第に物を投げたりと必死。
しかし、キングダムの暇潰しに付き合わされた被害者であるにも関わらず、彼等を眺める者すらいない。
もはや、完全な骨折り損のくたびれ儲けであった。













肝試し大会改め、“ドキッ!本物だらけのホーン・デッド・スクール☆”が終幕したのは、それから三時間後の事だった。
結局優勝者はおらず、生徒は全滅。
教師もまた然りである。
それも当然と言えば当然だろう。
階段から転げ落ちてくる血まみれの女の子。
両手を上げて呻きながら追い掛けてくる本物のゾンビ集団。
あっさりと壁を擦り抜けてくる半透明の女。
白い仮面を被ってチェーンソー片手に追い掛けてくる男。
四つん這いで車もびっくりな速さで走り抜ける男の子。
こんなものがワンサカいれば気絶の一つや二つしたくなる。


「根性のない奴らが多いな。日本の未来が思いやられる」

「ホントだね、幸村。僕たちがもっと頑張るしかないね」


原因はお前らだ。
何処からともなくそんな恨み言が聞こえた気がしたが、二人に僅かの心痛も与える事なく。
哀れにも『軟弱者』のレッテルが全校生徒、教師たちに貼り付けられたのだった。


「はぁ……」


一方。
濡れた溜息を吐き出すリョーマはと言えば、例の如くソファの住人。
結局あの後、生徒会メンバーの前で二回イかされ、その後手塚によって連れ込まれた隣室で本番。
そこでも二回イかされて。
疲労困憊状態。
セックスの直後という事もあり、色気は通常の三割増しだ。
酷くスッキリした、清々しいまでに満足そうな手塚に四方八方から罵声や呪詛が飛び交ったが、それもまたいつもの事。
既にトロトロと眠りの淵にいるリョーマにはそれらを聞き取る事も出来なくて。
穏やかな寝息が聞こえたのは、その数秒後。






今日も青春学園は平和です。






END


2/2
prev novel top next


 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -