見下ろす冷たい眼下。
耐え兼ねたように絞り出される説明。
しかしそれはなんら手掛かりたるや無し。
夢うつつのまにまに庭に下り、気が付けば曼珠沙華畑にいたのだと。
そして、振り向いた先にあの惨劇を目にしたのだと。
俄かに信じがたい。
こんな悪天候の中、例え寝ぼけ眼であろうと庭に下りるだろうか。
ましてやあの冷たい雨の中。
死体があったのは屋敷の真裏に位置する川に面した曼珠沙華畑。
そこに行くにはわざわざ庭に下り、屋敷を丸々迂回しなければならない。
夢うつつに覚束ない足で、そんな事が出来るものだろうか。
けれどリョーマが嘘を吐ける女でないことは、手塚自身が誰よりもよく知っている。


「……面倒なコトを……」


狙い定めたように死体の元へ、この雨の中を彷徨ったリョーマ。
記憶すら曖昧であり、目的も判然としない。
これでは弁解も擁護も不可能に等しい。
──もっとも、手塚自身に害がないよう事件ごと揉み消してしまえば問題はないのだが。
溜息とともに煙草に火を点け、天井を仰ぐ。
夜明けは、まだ遠い。




act.3
-END-


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