くったりと手塚の膝に崩れ落ちれば、満足げな笑みが頭上に降り注いだ。


「朝は必ず俺の元に来いと言っておいた筈だ」


クイと顎を仰のかされて、ボンヤリと蕩けた視線を手塚へ注ぐ。
そのリョーマの髪を手塚がさも楽しげに梳き、ついでとばかりにスカートから覗く太股を撫で上げられた。
ピクッと震える華奢な腰に、手塚が瞳を細める。
そして、ほんのりと色付いたリョーマの耳朶へと、噛み付いた。


「お前は、俺の物だろう」

「あッ……ャんッ!」


耳朶に囁かれた低い美声。
そして、チリとした痛みとヌルリと耳を擽る感触。
ゾクッと背筋を這い上がる痺れが、リョーマの唇から高い声を誘った。
悩ましげに頬を染めて濡れた呼吸を零すリョーマを膝上から抱え上げ、手塚の瞳がその琥珀を見上げる。
陶然と蕩けた瞳で見下ろすリョーマに、手塚の喉が満足げな笑みを吐いた。


「解ったな、リョーマ」

「ン……はい……」


吐息とともに齎された同意。
ニヤリと吊り上げられた口角が、手塚の美貌と相俟って酷薄な印象を齎した。













その後、リョーマは専用のソファに座らされ、代わる代わる現れる生徒会メンバーによって介抱される事となる。
トロリと溶けた瞳。
濡れた吐息を吐き出す薄紅の唇。
情欲を誘うに申し分ない媚態をソファに横たえ、ボンヤリと手塚の姿を追い掛ける。
それがリョーマの日常だ。
そしてそれは生徒会による重大決定事項。
この学園に於いて、生徒会は絶対権力を有する存在だ。
教師ですら生徒会に太刀打ちする事は叶わない。
それは生徒会メンバーの有能さに起因する。
全国模試トップの成績を持つ手塚に始まり、全国で十の指に入る秀才たち。
更にその運動神経も秀逸で、スポーツに関して彼等の素質は全国クラスだ。
そのうえ中にはパソコンやITに特化した者もあり、ハッキングなぞも出来たりと。
兎に角彼等の力は筆舌に尽くし難い。
そんな生徒会メンバーは畏敬と畏怖を篭め、キングダムと渾名されている。
確かに、この学園は彼等が治める王国と言って相違ない。
教師ですら御する彼等にはしかし、一つだけ重大な欠点が存在した。
そう、性格だ。
往々にして彼等は自己顕示欲が強い。
早い話が、全員俺様だ。
それもとてつもなく。
特に会長の手塚などその筆頭である。
そのうえ、なまじ全てを自分の思い通りに操る事が出来る力量があるだけに、学園は生徒会を恐れた。
無茶苦茶な命令は日常茶飯事。
例えば、暇だからという理由で急遽全校鬼ごっこ大会が開始されたり。
例えば、暑いからという理由で突然全学年対抗水中騎馬戦大会が繰り広げられたり。
そして、そのどれもが最下位、またはキングダムによって選ばれたチームには世にも恐ろしい罰ゲームが施行される。
その恐怖たるや、語ることも憚られる程だ。
どんな突拍子もない命令が下されようと、逆らう事は不可能。
絶対王政ここに極まれりであった。
しかし、この春。
学園には一滴の希望が降り立った。
それが、姫ことリョーマの入学だ。
その類稀な美貌と聖母の如き寛容さは、キングダム全員を虜とした。
そして、それからというものキングダムによる絶対王政は和らぎ、学園は平穏を取り戻した。
よって、リョーマは学園に於いての姫であり、神に等しい存在である。
そして、リョーマは手塚の傍らにある事こそが自然と認識され。
学園の秩序は守られているのだった。
因みに、そのリョーマと手塚が既に恋仲である事も、周知の事実である。
もっとも、キングダムの面々に認める気は更々ないらしいが。
そうして、今日もまた一日が過ぎていく。
奇妙な学園の奇妙な生徒会。
横暴なキングが取り仕切る危険なキングダムと、一人のお姫様。
青春学園中等部の一日は、こうして過ぎていくのだ。






END


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