一斉になだれ込んでくる外気の奔流に髪をなぶられ、反射的に瞳を伏せる。
初夏と言えど台風が近いせいだろうか。
風が強い。
髪を押さえながらゆっくりと屋上へと踏み込めば、広々としたコンクリートの庭園。
ジリジリと照り付ける日差しは遮るものもなく、暑いというよりは痛みすら齎してくれる。


「氷室……さん……?」


見渡したそこに人の姿はなく。
ただ広大なコンクリートが熱を照り返しているだけ。
困惑も露わに再び氷室を探すが、結果は同じ。
目的の姿は見つけられず、リョーマの眉尻が落とされた。
話す事すら、嫌になってしまったのだろうか。
それとも躊躇していたために待ち切れず戻ってしまったのだろうか。
悲しげに瞳を揺らし、屋上に背を向けようと身を翻した。
──瞬間。
何処からともなく悲鳴が響いた。


「……え?」


そのあまりの悲痛な響きに、踏み出しかけた足が止まる。
次いで、ザワザワとした喧騒が広がり。
反射的にリョーマの足は屋上の端──そのフェンスへと向かった。
ざわめきは下から聞こえており、カシャンという金属の抗議音とともに地表を見下ろした。


「誰かいるぞ!」


途端。
響く、怒号。


「あいつが突き落としたんだ!」


誰からともなく叫び、指し示されたのは──屋上に佇むリョーマの姿。
困惑に目を瞠ったリョーマが一歩後退した、瞬間。


「────ッ!」


声にならない悲鳴に唇を覆う。
遥か下に集う雑踏の、その中心には──深紅の水溜まりに沈む変わり果てた氷室絵理香が、横たわっていた。






2ー1
END


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