「いやー!」


ドドドドと黒々とした人だかりを引き連れて疾走するのは、アリスことリョーマ。
ゲーム開始直後から追いかけ回され続け、追っ手の数、およそ五十人。
定評ある脚力で以て全力で逃亡を試みてはいるのだが、中々突き放せない。
むしろ追っ手の数が達磨方式に増えている。
その上、追っ手たちの目は学園一の美少女とのキスに血走っていて。
はっきり言って、怖い。


「手塚さぁん!」


恐怖感に駆られて涙混じりに恋人の名を叫んでみるが、所詮はこの場にいない人間。
どうにもならない。
階段を駆け登り、ここは五階。
下手な部屋に逃げ込むのは無意味。
となれば走り続けるより他にない。


「やーッ!」


本気で走っているのに、追っ手に脱落者が出た気配はなく。
リョーマは本気で涙目だ。
そして、目の前に扉が現れた。
深い考えもなく、その扉を一気に開け放つ。
追い付かれたくない一心で。
そして、謀らずもそれは最善の行動となった。


「……リョーマ」

「て……づか……さん……?」


開け放ち、走り込んだ部屋は生徒会室。
そこには今し方追っ手全員をあの世に送り届け終えた手塚が。
肩で息を繰り返すリョーマが呆然とソレを眺め。
そして、ブワッと涙を浮かべながら、手塚へと走り寄った。


「手塚さん!」


ギュッと十二単の胸元に身を寄せるリョーマは、安堵したのかボロボロと涙を零して。
いったい何だと眉を顰めた手塚だが、近付く無数の足音にギッと鋭利な視線を突き刺した。


「……アレか……」


黒山の人だかりと形容するに十分な人混みが生徒会室に雪崩込む。
怯えたように縋り付いてくるリョーマを抱き寄せたまま、手塚は追っ手たちを苛烈な視線に睨み据えた。
しかし、追っ手からしてみたならば和風美女と美少女のツーショット。
非常に目に美味しい状況であり、手塚の視線に怯む者はいなかった。


「姫と会長のセットだ……」

「写真撮んなきゃ」

「俺も!」

「かぐや姫とアリスのツーショ……レアだ」


などなど宣いながら我先にとカメラを構える男子たち。
手塚の決して長くない堪忍袋がピクピクと震えた。
そして今にもブチ切れんやという刹那。
フと、手塚の脳裏に名案が閃いた。
胸に抱き着き震えるリョーマを見下ろし、フッと手塚の口角が上がる。
そして。


「生憎、ゲームは終わりだな」


手塚がそう宣言した。
何の話だ、と目を見開いた追っ手たちの目前で。
手塚の指先がリョーマの顎を捉え、仰がせ。
瞬間、二人の唇が、合わされた。






◆◇◆◇







「あー楽しかったねぇ。今回のナイツ・プロジェクト」

「あぁ。中々楽しめた」

「何処がだ!」

「何処がや!」


クスクスと笑う不二と幸村に噛み付くは、跡部と白石。
グッタリとするキングダムの面々が、恨めしげな瞳で跡部たちに同意した。


「中々いいデータになった。礼を言う」

「お前さんは参加せんかったからのぅ」

「羨ましい限りです」


柳が満足げに呟けば、仁王と柳生の恨み言。
辟易とソファに沈む二人も、やはりそれなりに大変であったらしい。


「しっかしなぁ。姫同士でえぇやなんて聞いてへんわ」

「貴様らの脳が薄いだけだ」


恨めしげに手塚を睨んだ忍足へ、手塚がフンと鼻を鳴らした。
結局、あの地獄のミニゲームの優勝者は、姫の一人であるリョーマの唇を奪った手塚。
結果発表が為された際の参加者たちの落胆と言ったら、筆舌に尽くし難い。
何しろ、姫同士でも有効と知っていたなら真っ先にリョーマの元に向かったのだから。
そうすればあんな無駄な労力や恐怖、不快感を感じずに済んだのに。
悔しげに地団駄でも踏み兼ねない面々を前に手塚はただ勝者の笑みを一閃。
傍らに立つリョーマも苦笑を浮かべただけ。
波乱のナイツ・プロジェクトは、こうして幕を閉じた。






しかしナイツ・プロジェクトによって男子生徒数人が危ない道に踏み込み、キングダムの面々はその後男に追いかけ回される日々が続いたとか。
更に、かぐや姫とアリスのキスシーンの写真が美女と美少女の百合シーンだと、とてつもない高値で男子たちの間でやり取りされているとか。
美形は何を着ても似合ってしまうというのも、善し悪し。






END





→言い訳

5/6
prev novel top next


 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -