髪は仁王と同じく地毛と同色のウィッグによって地面に引きずる程だ。


「ふふ。二人とも綺麗だな」

「特に跡部?君、産まれてくる性別間違えたんじゃない?」

「ぶっ殺すぞテメェら!テメェらにだけは言われたくねぇ!」


怒鳴り散らす跡部を余所に、クスクスと魔王二人は至極楽しげ。
悪魔である。
フルフルと拳を握って憤怒に震える手塚には、オズオズと近付くリョーマが。
怒りに唇を噛む手塚を覗き込み、琥珀の瞳を懸念に揺らした。


「手塚さん」


心配そうに手塚の名を呼び、握り締められた拳をそっと小さな掌が包み込む。
いったい何なのだ、と手塚が怒り冷めやらぬままリョーマを見下ろせば。
フワリと柔らかな微笑みが。
そして。


「大丈夫です。手塚さんもとっても綺麗ですから」


とどめ一発。
リョーマ本人からすれば慰めのつもりなのだろうが、はっきり言って追い討ちだ。


「天然っちゅうんは怖いなぁ」

「せやなぁ……って自分……。吐息溜めて喋んなや。キショいで」

「これが素やねんて」


こうして、波乱の舞台は幕を上げたのだった。













※ここからは舞台の模様をお伝え致します




「あれ?ここ……何処……?」

『白兎に導かれたアリスは、不思議なお屋敷に辿り着きました。そこはとても綺麗なお屋敷でした。奥からは人の話し声がします』


舞台にリョーマが現れ、スポットライトが照らされる。
キョロキョロと周囲を見渡すリョーマの上、聞こえたのはナレーションとなった柳だ。
柳のナレーションに導かれ、スポットライトが扉のセットを照らす。


「あの人たちに聞けば、ここが何処か解るかなぁ?」


『そうしてアリスは話し声のする戸を開けました。そこには沢山のお姫様がいました』


扉を開けるようにリョーマが腕を広げる。
と、同時に舞台の照明が暗転。
そして柳のナレーションとともに再び明かりが点された時には、舞台上には役者である生徒会メンバー全員が。
彼等を目にした観客から、奇声や黄色い歓声、野太い感嘆を上がった。


「あら?お客様かしら?」


舞台の隅にいたリョーマを幸村が振り返る。
何故だろう。
妙に女言葉が様になるのは。


「あの……道に……迷ってしまって……」

「あらあら。そうなの。お名前は?可愛らしいお嬢さん?あ、でも私の方が美しいんだけれどね?」

「は……い……?」


フフ、と軽やかな微笑みとともに発された台詞。
そんな台詞、台本にあっただろうか。


「あの……えっと……アリス……です」

「そう。アリスと言うの。私は茨姫よ。あちらにいるのが白雪姫」

「こんにちは、アリスちゃん」


戸惑いながら演技を続けるリョーマに紹介されたのは、不二。
ニコやかに微笑む不二にリョーマがポッと頬を赤らめたのは、あまりに美人だったから。


「よ……よろしくお願いしま──」

「ところでさっきの話の続きなんだけどね?」


挨拶を返さんとしたリョーマへ鮮やかに不二の背が向けられた。
台本通りではあるのだが、何だかやはり寂しいものだとリョーマの瞳がシュンと伏せられる。
しかし、不二の台詞は続く。
だがそれは観衆の誰もが予想しえない台詞だった。


「やっぱり、男は顔とお金よ。それ以外ないわ!」


拳を握って力説。
白雪姫が壊れた。


「純愛なんかじゃお腹いっぱいにはならないのよ!ねぇ茨姫!」

「そうよ。権力もあって顔もいい。それがいい男の条件だわ」


茨姫もノっちゃったよ。
あまりの展開に唖然と目を見開く観客。


「──そんな事あれへんちゃうん?」


舞台の左側から反論。
妙なフェロモンを垂れ流した織姫様のご登場だ。


「何よ織姫。アンタなんか身分も地位もない男しか捕まらなかったからって私たちをひがんでるんでしょ」

「いやぁね?それは貴女に魅力がないから。私たちにアタられても困るわ」

「毒リンゴ食うて一ペン死んでまうようなアホと百年寝こけとった怠けモンに言われたないねんなぁ?」

「なんですって!」

「織姫!もう一度言ってごらんなさい!」


織姫に噛み付く茨姫と白雪姫。
しかし織姫はフンと高慢に笑い、髪をサラリと背に払っただけ。
その仕種があまりに板に付き過ぎており、男子生徒数名がハートを射抜かれた事は、全くの蛇足だ。


「なら!人魚姫はどうなのよ!」

「そうよ!」

「うわ……きよった……」

「気張りやー」


ビシィと白雪姫に指指された人魚姫、もとい白石からごく小さな嘆き。
もはや腹を括った忍足からの激励が小さく飛ぶが、何の慰めにもならない。
冷や汗に背中がジットリと濡れている気さえして、むしろ泣きたい気分だ。


「な……なんやの?」

「何じゃないわよ!アンタなんか純愛に色ボケた筆頭じゃない!」

「そうよそうよ!」


だからなんでそんなにアンタらはノリノリなんだよ。
白石の目から涙がキラリと零れた気がした。


「そ……そないな言われ方かなわんなぁ」

「だってそうでしょう?王子様ストーカーした揚句に泡になったくせに」

「信じらんないわ!」

「ひ……酷いなぁ」


なんて身も蓋もない。
夢もへったくれもない言い様だ。


「ねぇ?そう思わない?シンデレラ」

「げっ!」


話を振られた直後、思わず蛙を踏み潰したような声を上げてしまったのは、跡部。
ズザッと一歩引いてしまったのはあまりに不二と幸村の顔が真剣だったから。
何故そんなにマジなんだ。


「さ……さぁ……私には……なんとも……」


ボソボソと台詞を口にすれば、目の前の不二の微笑みが濃くなった。
目を、カッと見開いて。
怖い。
とてつもなく怖い。
そして、声のない口パクによって跡部へとこう呟いた。


《キ・コ・エ・ナ・イ》


「さ、さぁ?私には何とも言えませんわッ!」


冷や汗がこめかみ伝う中、跡部が大声で台詞。
相当不二が怖かったらしい。


「あぁら。自分だけいい子ぶる気ね、シンデレラ」

「あれかしら。灰を被り過ぎて私たちのように高貴な考えに付いて来れなくなったのかしら」


オホホと響く高笑い。
どうにかしてくれこの二人。


「あれでしょう?シンデレラは灰を被り過ぎたからそんな髪の色になったのよねぇ?」

「あんだとテメェ!これは地毛だ!」


茨姫からの台詞に思わず跡部の叫び。
素で怒鳴り散らした跡部だが、しかし。
次の瞬間、ヒヤリと背筋に冷気が走り抜けた。


「ッ………」


幸村が、笑っている。
笑っているその後ろには、真っ黒な穴が開いている。
その中から巨大な鎌を掲げ持った髑髏がカタカタいいながらヌッと顔を出していて……。


「跡部?台本にない台詞を勝手に喋るな?」


ニッコリと満面の鮮やかな笑みで持って幸村が微笑む。
ダラダラと跡部の背に嫌な汗が。


「ひ……酷いわ茨姫!そんな言い方しなくてもいイじゃない!」

「あらあらシンデレラったらすぐ泣くのねぇ」

「これじゃあまるで私たちが悪者扱いだわ」


恐怖心に突き動かされた跡部が声を裏返らせながら叫んだ台詞。
しかし、涙目なのは何も演技じゃない。
本当に涙目だ。
それだけ恐ろしかった。
幸村と不二が。


「ドンマイや。跡部」

「……死にてぇ……」


白石にポンと肩を叩かれた跡部が舞台端で崩れ落ちたが、魔王二人は楽しげにそれを笑い飛ばしただけだった。


「それと。さっきから気になってたんだけれど」


そして茨姫扮する幸村の標的は次なる者へ。


「どうして姫でもない子がここにいるのかしら?」

「そうよ。それに二人も!おこがましいわ!」


無理矢理やらせたくせに何て言い草だ。
指差された二人──仁王と柳生は揃って苦虫を噛み潰す。
そして、フゥと仁王が細く息を吐き出した。


「あら。私だって王子様に嫁いだ身。姫の身分になったのよ?とやかく言われる筋合いはない筈だわ」


仁王から発されたのは、女声。
流石は詐欺師。
演技もお手の物らしい。


「ふん。負け惜しみね!それに何なの?そのズルズル長ったらしい髪!今時流行らないわ!」

「あらあら。やっかみね?茨姫。貴女こそ、城に生えていた茨は貴女の口から出た刺なのではなくて?」

「な!なんですって!」


顔を真っ赤にした茨姫に、クスクスと小馬鹿にしたような笑みを零すラプンツェル。
Mっけのある男子が仁王に堕ちた瞬間だ。


「貴女もよベル!アンタなんか男の趣味最悪じゃない。何よあの獣顔!信じられないわね」

「そうでしょうか?男性に権力しか見ないお二方よりは至極真っ当な伴侶選びであったと自負しておりますよ?それに、貴女が継母にされた仕打ちを思えば王子とて裸足で逃げ出されるのでは?真っ赤に焼けた靴を履かされては堪りませんもの」

「なんですって!」

 

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