ツンと鼻孔を突き上げるアレルギー独特の刺激が更に涙腺を刺激し、新たな涙をボタボタと落としていく。
顔に存在する粘膜という粘膜が犬の体毛、臭い、全てに拒絶反応を示していて。
まともに喋れやしない。


「あの……俺、この子別の部屋に置いて来ますね」


あまりに酷い手塚の状態に、リョーマが慌てたように入口へと踵を返す。
隣室に子犬を隔離すべく、生徒会室を後にした。
残されたのはニヤニヤと笑う者たちと、手塚。
犬がいなくなったとは言えど、やはりまだ毛や臭いは残っている。
アレルギーに鎮静の気配はなく、手塚のくしゃみも止まりそうもない。
苛立たしげに備え付けの洗面台に顔を突っ込み、強引に瞳を洗う様から察するに相当な重症なのだろう。
水流に眼球を曝した手塚が顔を上げたのは数秒後。
その目はやはり真っ赤に充血し、シバシバと幾度も瞬きを繰り返している。


「せやけど意外やんなぁ?あの手塚が……なぁ?」

「ワンコがアカンっちゅうんは……なぁ?」

「……黙れ」


ニヤニヤと笑う忍足と白石を睨め付け、手塚が低く唸った。
プライドの塊とも言える手塚の事。
弱点を知られる事は致命的な打撃であったらしい。
全員を睨め付ける視線は、雄弁に語る。
何処でこれを知ったのかと。


「お前は今、何処でこれを知ったのか、と疑問に思っている」


手塚が口を開くよりも早く、柳がその心情を的確に指摘する。
チラリと柳へと視線を投げた手塚の目は、無言のまま催促。
誰に聞いたのか、と。


「さる筋から有力な情報が入った、とだけ言っておこうかのぅ」

「プライバシーの保護は当然の義務ですからね」


柳に代わり応えた仁王と柳生へは、チッという舌打ち。
忌ま忌ましげに零されたソレは、暴露した人物が解らなかったから──ではなく。


「……貴様か……不二」

「えー?僕知らないなぁ」


むしろ特定出来たからこその舌打ち。
ギッと睨んだ場所にはニコやかな微笑みを浮かべた幼馴染みが。
おどけたように肩を竦める不二が、ニコニコと微笑んだ。


「でもまぁ仮に僕が犯人だったとしても、自業自得だよ。僕の怨み、思い知れ」


ニッコリと。
語尾にハートでも浮かばんばかりの晴れやかな声での返答。
常に面倒な仕事ばかり押し付けられ続けてきた不二の怨みは、成る程深い。
憎々しげに顔を歪めた手塚の傍ら。
幸村の鮮やかな微笑みが降り注いだ。


「安心するといい、手塚。君には更に素敵なプレゼントを明日、お目にかけるよ。不二に助言を貰っての最高のプレゼントだ」

「ふざけるな」


グシュグシュと耳障りな音を立てる鼻の粘膜を堪えつつ、苛烈な視線が幸村を射抜く。
しかし、そこは青春学園きっての魔王と名高き幸村精市。
麗しいまでの微笑みは崩される事はなく。
意味深長に口角を釣り上げ、真田や柳、柳生、仁王と言った面々と視線を交わした。






◆◇◆◇







翌日。
青春学園生徒会室には異質な物体が飾られた。
それは紙に絵の具が塗りたくられており、恐らくは絵なのだろう。
が、しかし。
その内容は筆舌に尽くし難く。
何が描かれているのか、全く理解不能。
恐らく、何かの生物であるのだろう。
足と頭と胴体がある。
しかし、頭の部分らしきそこは歪な逆三角形が鎮座し、その上には小さなサイズの逆三角形。
目は点がチョコリと二つあるだけ。
胴体は楕円形。
しかもガタガタと覚束ない。
更に足。
楕円形が胴体から伸びている。
いるのだが、おかしい。
何度数え直しても、足らしきものが五本ある。
しかも胴体から生えている筈の足は線によって胴体とは全く別物になっている。
胴体と足が繋がっていない。
そして、どう考えてもこの構図には無理がある。
首の骨が折れているとしか思えないような様でコチラを振り向いている生物。
その足元は一面緑の絵の具が塗りたくられているのみ。
一言で纏めてしまえば、小学校低学年か幼稚園児が描いたような絵だ。
つまり、破滅的。


「流石は手塚だな。芸術の才能もあったとは初耳だよ」


笑顔で発された幸村の賛辞。
そう。
この破滅的な絵の作者は、キングこと手塚。
手塚は確かに頭脳、運動神経に於いては逸脱した才を持っている。
が、手先の器用さだけは伴わなかったらしく、破滅的な不器用であったりする。
なまじ頭がいいために手先の伴わないリアルを再現しようとして見事に玉砕してしまうのだ。
よって、手塚は美術の授業には一度として出席した事がなかったりする。
白日に曝された過去の汚点──因みにその絵はつい二ヶ月前に書いたばかりの物──を前に、手塚はただ無言。
しかし、そこには明らかな憤怒が迸しっており。
キングダムの面々が一様に溜飲を下げたとか。
そんな彼等の傍ら。
不二はただニコニコと微笑みながら傍観。


「手塚にも意外な弱点があるものだね。ねぇリョーマちゃん?」

「そうですね。でも……皆さん酷いです」


手塚の絵を楽しげに眺める面々を前に、不二の傍らにいたリョーマは眉尻を下げる。
この瞬間、手塚と不二を除いたキングダムへのリョーマの好感度が著しく低下したのは、言うまでもない。






◆◇◆◇







その後。
キングダムの面々は手塚の意向により全校生徒の前で対決する事になった。
分野はスポーツ、格闘、文学、頭脳戦など多種多様。
それぞれが得意とする分野によって手塚と対峙したが、結果は惨敗。
観衆の面前で赤子の首を捻るかのように敗北を喫した彼等に、手塚はフンと鼻を鳴らして嘲笑したとか。






蜂の巣を突くような事は辞めましょう。






END


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