「あっあっあっ……な、かは……中は……だめぇっ!あっぅんっんっあっ……やァ──っ!」

「っ!」


息の抜けるような悲鳴が喉を駆け抜け、華奢な肢体が強張る。
遅れて頭上から降る呻き。
そして、胎内に広がる熱の拡散。
避妊具を用いないままに吐き出された精が、歓喜するかのようにリョーマの中へと撒き散らされた。


「あ……赤ちゃ……出来ちゃう……」


フルフルと余韻に身体を震わせ、ハラリと新たな涙がリョーマの目尻を滑り落ちた。
濁流に押し流されるような交わりが終わり、荒い吐息が絡み合う。


「てづ……か……さん……?」


黙したまま俯いた手塚の表情は、前髪の衝立に阻まれ見えない。
ただ、常よりも乾いた唇から漏れる荒い呼吸が繰り返されるだけ。
何時もと違う手塚の様子に今だ涙を浮かべた視界で見上げ、何かあったのかと頬に触れようと首に回した腕を剥がした。


「チッ……まだか……」


途端、舌打ちとともに吐き捨てられた台詞。
何が、と疑問にコクリと首を傾げたリョーマの手が、手塚の頬に触れる間際に止まる。


「てづ……ひゃんっ!」


問いかけようとした唇が、高い悲鳴を吐いた。
ズルリと無遠慮に引き抜かれた肉棒と、追随するようにドロリと流れ出した惰性の証。
内股を落ちるソレの感触に身体を強張らせ、キュと瞳を閉じた。
不意に、浮き上がる感覚。
何事かと目を見開いたリョーマの目に、手塚の顔が飛び込んだ。
サッ頬に朱を走らせたリョーマが状況を把握するよりも早く、手塚によって抱き上げられた身体がベッドへと放られる。


「え?あの……」


慌てたように身を起こすリョーマを押さえ込み、次いで手塚が乗り上げてくる。
乱れたセーラー服もそのままにシーツに縫い付けられ、琥珀の瞳が不安に揺らいだ。
見下ろす手塚は情炎を宿した目でそれを眺め下ろし、うっそりと笑む。
まるで獲物を捕らえた肉食の獣。


「暫く付き合って貰う。拒否は、受け付けん」


怯えた瞳を間近に覗き込み、白い喉へと手塚の唇が埋まる。
ピクリと跳ねた白い太股を大きな掌が撫で上げ、その脚を割った。













「あのバカ女に謀られた」


嵐のような性交は五回に渡り、精も魂も尽き果てグッタリとシーツに沈むリョーマが手塚を見上げる。
制止を孕む懇願を向けようと、逃れようと押し退けても、それら全てを巻き込まれて胎内に何度も注がれた。
喉はカラカラに嗄れ、もう無理なのだとリョーマが泣きじゃくり始めた頃。
漸く手塚の暴挙が収まった。
そして、今。
煙を燻らせる煙草を咥えた手塚が、忌ま忌ましげに吐き捨てた。


「あの女……?夕方の……先輩ですか……?」

「あぁ」


フゥと細く煙を吐いた手塚が頷く。
何も身に付けず、下半身をシーツに覆ってベッドヘッドに背を凭れさせる手塚の姿は、中学生には到底見える物ではない。
煙草を咥え、吐き出す仕種すら絵になるのだから流石だ。
未成年だと咎める気すら起きなくなる。


「その先輩が……何か……?」


喘ぎ過ぎた喉が言葉を詰まらせて、酷く話し難い。
困ったように眉尻を下げたリョーマを気にかけた素振りもなく、手塚の口がジジと煙草の火を後退させた。


「復縁しろと巫山戯た事を抜かしたんでな。捨てて来た」

「復縁……」


復縁という事は、件の女は以前まで手塚と関係があったのだろう。
しかしどんな理由かは定かではないが、一度破局した。
にも関わらず手塚との復縁を望み、話し合いの場を設けたと言うことだろう。
思わぬ手塚の過去、その一端に触れてしまい、リョーマの瞳が曇る。


「……そ……れで……」


聞きたいような、聞きたくないような。
複雑な想いが胸に渦巻き、キュッと胸元に両手を握る。
リョーマの心情など手に取るように解っているだろうに、手塚はただ煙草の灰を落としただけ。
そして再びそのフィルターを咥えた。


「あんなクズと関わるだけ時間の無駄だったんでな。さっさと帰るつもりだったんだが。クズにもクズなりの愚策があったらしい」

「……?どういう……意味ですか?」


吐き捨てるような手塚の暴言にリョーマの頭上から疑問符が飛び交う。
リョーマには手塚の口にした暴言の意味が理解出来ない。
むしろ、クズさんと言う名前の女性なのだろうかと的外れな事を考える始末。
白石曰く、お花畑なリョーマの頭では卑下する類の言葉は理解出来ないらしい。
不思議そうなリョーマを鮮やかに無視し、手塚の手が煙草を揉み消した。
付き合っていればリョーマがこの類を理解出来ない事ぐらい解っている。
故に敢えて説明も弁解もしない。
それが手塚だ。


「既成事実でも作るつもりだったんだろう。下衆な知能しか持たないクズらしい考えだ」

「きせいじじつ……?」


聞き覚えのない単語に再びリョーマが首を傾げる。
汗で張り付いた前髪を欝陶しげに掻き上げた手塚が、苛立たしげに舌打ちを零した。


「薬を盛られた。ガキでも出来れば俺が諦めるとでも思ったんだろう」

「薬……子供……って……」

「媚薬だ」


驚いたように目を瞠るリョーマへ、手塚の補足。
媚薬ともなれば、強制的に性的欲求が沸き上がるセックスドラッグ。
以前手塚自身によってその効果を身を以て体感させられた経験のあるリョーマからすれば、帰宅時の手塚の様子にも合点がいく。
グッタリとした様子で壁に凭れ、肩で呼吸を繰り返して。
体温も常より遥かに高かったのは、所謂欲情した状態だったからだろう。


「だが、薬を盛られたからとてあんなクズを抱いてやるボランティア精神など持ち合わせていないんでな」


復縁を懇願する身の上で相手に無理矢理跨がろうとする雌猫になど、勃つ筈がない。
むしろ嫌悪と嘲りしか生まれないという物だ。
ある意味、女自身の醜悪さによって自宅まで情動が抑制出来たとも言える。
あんな女を抱くくらいならば自分で抜いた方が数倍マシだ。
……とは言え、過去の手塚ならば確実にそのまま女を抱いただろうが。
だがしかし、結果的には衝動を堪えつつ自宅まで帰り着く事が出来た。
その精神力は流石と言える。


「あんな女など抱かずとも薬を抜く物には困らん」


言いながら、傍らに丸くなったリョーマを見下ろす。
予想外に絡んだ視線にリョーマがパチリと瞬いた。


「お前が身を以て抜く。そうだろう」

「──っ!」


ククッと低い笑みを吐いた手塚に、言葉の意味を理解してかカッとリョーマの頬が発火する。
羞恥に慌ただしくシーツを引き上げて中に潜り込んだリョーマ。
再び低い笑みを零した手塚が、二本目の煙草へと手を伸ばした。






「あ。ねぇ手塚。昨日深山先輩と一緒に居たよね?」

「…………」

「深山先輩、今日学校来てないらしいんだけど。家にも帰ってないって家族が大騒ぎしてるんだってよ?何したの?」

「さぁな」


呆れたような不二へと、手塚の失笑。
フゥと吐き出された溜息とともに、不二の肩が竦められた。






キングに対する暴挙には、王国追放が定石。






END





→後書き

2/3
prev novel top next


 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -