活動休止に陥った器官は、覚醒しても暫くはまともな機能を果してはくれない。
開かれた瞳もまた意識の覚醒を促したものの、眼球の役割は著しく低下しており周囲は白い霞の中。
秀麗な容貌を顰め、幾度かの瞬き。
そうして漸く、目の前の異様な光景を知覚した。


「おはようございます。手塚さん。ご飯が出来ましたよ」


フンワリと微笑む少女が、ベッドに両手を付いて手塚を覗き込んでいる。
その姿はここ数ヶ月、半同棲のようにこの部屋にいる恋人。
朝一番に出会う愛らしい微笑みと食欲をそそる朝食の香りは、この数ヶ月で慣れ親しんだものだ。
それはいい。
それはいいのだが。
問題は、その恰好だ。
着ている手塚のワイシャツは、当然リョーマには大きすぎる。
ブカブカの袖からチョコリと覗いた指がベッドに乗せられ、華奢な体を支える様は愛らしい光景ではある。
だがしかし。
その胸元は大変美味で危険だ。
大きすぎるが故に、覗き込むという体制上シャツが弛む。
シャツが弛めば当然重力に従って肌から布が浮くわけで。
現在、手塚の視点からはリョーマの上乳が丸見え。
むしろ少し体を起こしさえすれば、昨夜散々愛でてやった可愛らしい突起が視界に映るだろう。
起きぬけには些か目に眩しく、そして何とも美味な光景。
ベッドに転がったままその極上のアングルを眺めていた手塚だが、この男が見るだけで終わるはずもなく。
覗き込む少女の腕を捕えてはベッドへと引きずり込むべく、その手をリョーマへと伸ばした。
──が。


「お顔洗ってきてくださいね。すぐ準備しますから」


手塚の手が届くより僅かに早く、リョーマの腕がベッドを離れ悩ましく覗く足が反転。
ふんわりと柔らかな微笑みとともに手塚の手を逃れ、リョーマの背が寝室から消えた。
期せず空を切った腕が中途半端な中空を泳ぎ、手塚の顔に苦々しい舌打ちが浮かぶ。
完全な偶然だったのだろうが、リョーマが手塚の手を避けたのは紛れも無い事実。
不愉快げに片眉を跳ね上げた手塚が、ゆっくりと布から身を起こす。
そうしてベッド脇に一度腰を落ち着け、寝乱れた前髪を掻き上げた。
不機嫌を絵に描いたようなその容貌。
緩慢に立ち上がった足は、リョーマの示した洗面所を背にして。
寝室にまで届く芳しい朝餉の香りは、リビングのドアを開けた途端にその濃度を増した。
上半身を晒し、身につける物はスラックスだけのまま、手塚の足は惑う事なくキッチンへと進む。
そこにいるのは、先ほど手塚を起こしに来たリョーマ。
朝食の盛り付けに専念しているのだろう、手塚に気付いた気配はない。
シンクに向き合い、手塚に背を向けたまま椀を一つ盆の上に置く様が見えた。
暫く──とは言え数秒程度だが──その光景を腕を組んだまま壁に背を凭れて眺めていた手塚が、ゆっくりとその背を浮かせた。
そうして、長い脚がリョーマへと歩み寄る。
リョーマは、まだ気付かない。
二つ目の椀に味噌汁が注がれ、一つ目の隣に並んだ。
直後。


「きゃっ!」


短い悲鳴が、少女の唇を突く。
椀が手から離れた瞬間、リョーマの体が背後から囚われた。
背から回された手塚の、強引な左腕によって。
本能的な反射によって悲鳴とともに振り向いたリョーマの顔は、薄紅色。


「手塚さ……どう……しました……?」


突然の事で驚いたのか、はたまた突然のスキンシップに心の準備が追いつかなかったのか、またはその両方か。
恥じらうように薄く色付いた頬と目尻、潤んだ瞳はあまりに間近すぎる手塚を直視しない。
慌てたように視線を手塚からシンクへ戻したリョーマだが、戸惑いがちながら気遣いの言葉を忘れない辺りが彼女が手塚の恋人であれる所以だ。
しかし、手塚からの返答は沈黙。
だが言葉は無くともこの手塚と言う男、答えはしっかり返す。
ただし、行動によって。


「あの……?どうし……ひゃうッ」


無言の手塚を気遣ってか、振り向こうと首を傾げたリョーマから、高い悲鳴が響いた。
大きすぎる手塚のワイシャツ。
今現在リョーマが身に纏うのはそれ一枚。
手塚の手が、そこから覗く白い太股を撫で上げた。
敏感な部分に近い、酷く際どい場所を。


「や……てづか……さん……」


だが、手塚がただ撫でるだけに終わるはずもなく。
むっちりと淫らな太股を滑る手は、早々にその矛先を変えた。
スルスルと指先を昇らせ、ワイシャツの中へ。
辿り付いたのは淡い下生えに守られた秘所。
前戯も愛撫も施されていないそこは、まだ潤いを見せてはいない。
しかし、手塚にはそんなことは関係ない。


「やァ……!」


潤いを持たない秘所の周囲を、イヤらしく撫で回す。
陰部を撫でるように、時折指先だけを潜り込ませながら。
羞恥にか、フルフルと震えはじめたリョーマはシンクに縋るように前屈みに逃げていく。
だが腰に回された逞しい左腕はそれを許さない。
華奢な肢体を軽々と引き寄せれば、手塚の左手はその役割を変更した。
捕獲から、愛撫へ。
ワイシャツの裾から左手が突っ込まれ、目指すは胸元。
リョーマの頭越しに見える、小振りな二つの乳房。


「んッ……あ、ゥんッ……や、ァ……」


左手が左の乳房に到着し、その丸みを崩すように握り込めば華奢な体がビクリと跳ねた。
同時に、下肢にジワリと滲み始めた潤い。
手塚によって手ずから開発されたリョーマの体は、酷く正直だ。


「んャ……あっ、はァっん……」


羞恥に震えながら、上がり始めた少女の呼吸と体温。
脱がされる事のないワイシャツの下で手塚の手が蠢く度、リョーマの唇が甘く濡れた。


「あっあっ……あンッ……てづ……かさ……」


大きな瞳からハラハラと零れ落ちるのは、羞恥か快感か。
陰部を擦るだけだった指先は、いつの間にか胎内へ。
胸への愛撫だけでトロトロに溶け始めた女陰を抉り、奥を突き刺す。
訳も解らぬまま巻き込まれるまま震える少女を尻目に、手塚はただリョーマを追い詰める。
時折のけ反る喉を舌で舐め、時に噛み付いては跡を残した。
うっすらと紅く染まった少女の目尻に、手塚の雄が火種を燻らせる。


「あっあン……ンッん、ふ……」


ガクガクと震え始めた白い脚。
胎内に侵入した二本の指が、濡れた壁に吸い付かれた。
逃げるように捩られていた腰は、気付けば手塚の愛撫に応えるように揺れる。
トロリと白い太股に、白と透明の混じり合った体液が伝った。


「……拒否していたわりにこのザマか。相変わらずの淫乱ぶりだな」

「やァ……!みみ……で……しゃべッ……ちゃ……はンッ」


煽った自覚はあるにも関わらず、手塚が吐くのはリョーマを辱める言葉。
低く掠れ、雄の色香と淫靡さをふんだんに含んだ声音は、リョーマの最大の弱点だと知っている。
意図せずとも上がりそうになる劣情の吐息を確信的に操りながら吐かれる嘲弄の言葉を、性感帯の一つである耳朶に直接吹き込む。
それはリョーマを陥落させるに並々ならぬ効力を発揮する。
面白い程に頬を赤く染め、柔らかな肢体が悦楽に溶け落ちる。
砕けたようにシンクに倒れ込む様は、もはや腕の筋力が使い物にならなくなった証明。
言葉で嬲られただけで芯の抜ける生来のマゾヒスト気質は、生粋のサディストである手塚をして実に好ましい。
倒れ込んだ体を胸を嬲る腕で無理矢理に抱き上げてやれば、胎内の指がイイ場所に当たったか少女が悩ましい悲鳴を吐いた。
揺れる腰が太股を淫靡に濡らし、手塚の指が動く度に粘着質な音色が拡散する。


「ンぁ、あッ!やンッ!そこ……ヤぁ……!」

「黙れ」


手塚の指が際どい場所を出入りして、リョーマの肩が何かに耐えるかのように震える。
リョーマより遥かに太く長い手塚の指でも届かない、奥の奥。
卑猥に震える子宮の口が、堪え難い痺れをリョーマの快楽中枢へと叩き込む。
出し入れされる指がその速さを増し、震える少女を追い詰めるけれど、決定打は与えぬまま。
乳房の形を歪めては先端を爪に引っ掻き、白い喉に跡を散らせば手塚の腕で少女の肢体がビクビクと派手に震えた。


「はッあっあっ……やッ……も……やァ……」


胸を嬲る手塚の手に手を添え、涙混じりに上がる愛らしい懇願。
耐え切れないと俯いた顔は伺い知る事は出来ずとも、推測するに容易い。
長くたわわな睫毛を涙に濡らして固く伏せ、愛欲に染まった目尻に雫を零す様がまざまざと浮かぶようだ。
薄いワイシャツ越しに感じる体温と息遣い。
そして、快楽に沈む小刻みな震え。
ゾクリと、手塚の背を熱の塊が走り抜けた。
異様に渇く唇は、彼自身の舌に潤され凄絶な淫靡さを撒き散らす。


「んッ、んッ、ふ……ひゃゥッ!」


走り抜けた熱に忠実に。
手塚の指がリョーマの胎内を一斉に退く。

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