いい方法がありますよ、と言って少女は赤いフレームの奥にある目を細めてみせた。放課後に部室で、そう告げた少女の頬の赤らみを目敏く気付いた後輩は中々のものである。いたって感心するばかりだ。しばらく開き放しだった口を戻しながら遠ざかっていく丈の短い少女の揺れるスカートを眺めた。

部室で、と言った張本人をやっとのことで見つけた場所はグラウンドであった。しかも端の、植木に紛れてしゃがみこんでいた。後輩がどこを探しても見当たりませんと嘆くわけだ。溜息をつけば彼女は首だけをぐるりと回してこちらを向いた。馬鹿に明るい髪の毛が垂れて地につきそうだ。「先輩遅かったですね。」返す言葉もなかった。
日が差しても生き残る冷気に晒され少女の両膝はなんとも寒そうである。寒くないのかと問えばコート着てますし、と紺のダッフルコートを指差して見せた。もちろん腰までしかない。強靭な精神力を持ってしてのものなのかは定かではないが、確実にいえるのは若さ≠セろうか。
そんなことを言えば「先輩だってひとつしか歳違わないくせに」と返されそうだが。少女は夢中で植木の麓へ両手を差し込みなにやら探っている。時々枝の折れる音がするくらいだから、刺さって痛いのではないか。そんな心配も露知らず少女はただ一心に植木の下へ手を伸ばしている。屈んだまま身を乗り出すものだから、スカートから太腿が付け根まで露になりそうである。
「あった」
ぱっと華やぐように少女は微笑む。ここまで彼女が生き生きと物を話すところを初めてみた。金髪が揺れて、薄い瞳の色が瞼に隠され半分ほどになる。 枝葉の中から引きずり出されたのは、てのひらサイズの、雑巾のようなもの。長い紐のようなものが五本だらりと塊から伸びている。手袋にしてはやけに長い感じがする。
「内緒ですよ。あたしも先生に教えてもらったんです。こっそり。」あの胡散臭い白衣の男か。どうにもあてにならないだろう。どうしてまたそんな男の話をさも楽しげに話すのだろうか。この少女は。
萎えていくこちらの気分とは裏腹に、彼女は足元に置いてあった口の開いた学生鞄からペットボトルを取り出し、片手でキャップを外し中身をそれにかけている。中身は500mlのコーラだ。液体であるそれは地面に吸収され音を立てて泡を生み出しては消えていく。塊の砂が洗い流され毛で覆われていることがわかった。
あえて言葉にしてはいけない代物だということが明瞭にされていく。
「これを、踏むんです。さぁやって」
先輩、そう言って立ち上がった彼女が眼鏡を掛けていないことにようやく気付いた。濡れてベタついた手を痩せた脚で拭いている。柔らかであろう肌に濃すぎる泥の色は浮いてしまう。それジャマでしょ?土で汚れた細い指でサングラスを取り上げて、少女は自らの顔にかけてみせた。彼女の顔はわりと小さいため半分ほど隠れてしまいそうだ。首を傾げにこりとする無垢な狂気は輝いている。
長い髪から覗く、やけに白い項に目を奪われて、そうか、と気のない答えをした。






またまた頂きました!また子が眼鏡って萌えるよねとかそういう会話をしました。萌えると思います。ガンガン萌えます。黒瀬さんの優しさにスタンディングオベーションです。ありがとうございました!またお願いします。