悪夢


屯所の前を女が歩いていた。
見事な金色の髪を持つその女を知らない真選組隊士はいない。

指名手配書108番、来島また子。
通称赤い弾丸。高杉の情婦と言われている女だ。




「女だからと甘く見るな、鬼兵隊の幹部だ」

来島を見つけるや否や、屯所にいた真選組隊士は総出で取り囲むが、来島は腰の拳銃を抜く素振りも見せない。
それどころか、真選組がまわりを囲っていることも気付いていないようで、足取りは逃げる様子も焦った様子もなくゆったりとしたまま というより、ふらついたままだ。

果たして今自分が敵である真選組屯所の前を不用心に歩いており、隊士に囲まれていると認識しているのかも不明である。
というより、そもそも見えているのか。双眸には光がなく、虚ろである。
まるで夢の中にでもいるかのようだ。




真選組はじりじりと来島との間合いをつめ、そしてあっさりと来島を捕らえた。

来島は逃げようともしなかった。

真選組隊士に肩を乱暴に掴まれたときに、わずかに来島のまぶたと口元が動いたが、すぐに元の夢うつつの虚ろな状態に戻った。

本当にそれまで、真選組が周囲にいることに気付いていなかったのかもしれない。




来島は高杉に暇を出されていた。
と言えば聞こえはいいが、「必要になったら呼び戻す。それまで帰ってくるな」
と言われたので、要らなくなった捨てられたというのが実情だ。
壊れる寸前まで遊びつくした玩具に飽きて、でも壊れてないからとりあえず玩具箱の奥に入れておく、でもそのうち誰かが古くなったその玩具を捨ててくれるのを待っている子供のように、高杉は来島を不要とした。

玩具と違って人間をとりあえず置いておくことはできないから暇を出した。
一度飽きた玩具に二度と手がつけられることがないように、来島も二度と高杉に必要とされることはないだろう。
それでも玩具はもう一度己を使って遊んでもらえるのを夢見てひっそりと待ち続ける。

そんな夢をーーー白昼から悪夢を見ていたら、いつの間にか真選組に捕まった。

来島にとって高杉から離れることも側で弄ばれることも悪夢である。
あの薬から開放されて高杉に捨てられて一人さまようことも、あの薬で壊れる寸前まで高杉に乱暴に遊ばれるのも、どちらも同じ悪夢に変わりない。




土方は高杉の居場所を吐かせようと、鬼兵隊の情報を得ようと、来島を拷問にかけた。

水責め、鞭、爪剥など、肉体的苦痛を伴う拷問を一通り試したが、来島は一切口を
割らない。

「見上げた忠誠心だな」

体だけでなく、顔に傷を付けられても、来島はうつむいて口をつぐんだままだった。

これほどまでに部下に忠誠を誓わせる高杉とはいったいどういう男だろうか。
敵ながら興味をそそられる。




仕方がないので、あまり土方の趣味ではなかったが、天人製の強力な自白剤を打つことにした。
打ちすぎると廃人になる というので、加減しながらであったが、気がつけば限界を越える量を打っていた。
それでも来島は鬼兵隊の情報を一切漏らさない。

「どうなってんだ、この女」

土方が用意した自白剤は、理性を失わせるものだった。
話してはいけない、秘密にしなくてはいけない という理性による抑制を砕くものだ。

それは、高杉に打たれたあの薬に、内部から嬲るあの薬に少し似ていた。

自白剤のぞわぞわとする感覚、言われることされること何もかも快楽になって、つい何でも受け入れ従ってしまいたくなるのは、あの薬と同じだ。

しかし、あの薬を打たれたときは、もっと酷い快楽に襲われた。
苦しいほどの快楽の絶頂に押し流されてそのまま戻って来れなくなるような気がして恐怖を感じるほどだった。

戻って来れなくなったら高杉のために戦えなくなる、高杉の役に立てなくなる。
そのほうが耐えられないことだから、来島は薬に従順になるのではなく、わずかな理性で どうにか耐えた。

そんな来島を見て高杉は微笑んだ。来島は自分を使って高杉が喜んでくれていると思い、 それで絶頂に達し、女の痴態を高杉の隻眼に晒した。それはけして薬のせいではなかった。

そして、そうと知った高杉は来島に暇を出した。




あの薬に比べれば、自白剤など笑ってしまうほど容易く御せられる。

「この女、一度健康診断かけとけ。
 何の薬なら効くんだか、特異体質としか思えねえ」

やがて上がって来た検査結果を見て土方は笑った。

なるほど自白剤なんか効かないはずだ。
というより、本当にあの男は鬼か。
この女はあの男の情婦じゃなかったのか。




来島の髪の毛からも血液からも、強力な媚薬の残りが検出された。
その成分は、土方が使った自白剤に酷似していた。




「オイ、おまえ」

柱にくくりつけられ、後ろ手に縛られた来島を蹴る。

「俺らに捕まってよかったのかもな」

相当な勢いで蹴ったつもりだったが、来島は悲鳴ひとつあげず、うつむいて動かない。

「おまえのボスがお前に使った薬」

長い拘束と拷問で、美しい金色の髪も体も見るも無惨だ。

「ありゃあイッパツでどんな淑女も娼婦に身を崩すシロモノだ」

その髪を掴んで、土方が来島の顔を上に向けさせると、その目は娼婦でも廃人でもなく、隷従する者の目だった。

「つかフツーだったらとっくに廃人になってる量が打たれてるぞ」

思えば捕らえた時からそういう目だった気がする。
自分の主人だけを見つめて、他の何者をも視界に入れない目。
主人のみで構築されている、現実にはありえない世界を夢見ている目。

「そんな酷ェことされて、まだ操立てるってのか?」

来島は答えない。まるで土方の声が聞こえていないようだ。

「おんなじ薬、打ってやろうか?」

注射をちらつかせると、来島の空のような海のような瞳に初めて土方の顔が映った。
柱に括りつけられているため、けっして逃れられないというのに、身を捩った。

ようやく拷問らしくなってきた とでも言いたげに土方は口元を綻ばせ、来島の腕を掴み、注射針を刺す。

「嫌あああああっつ!!!」

透明な液体が来島の血管にゆっくりと注がれる。
はじめて来島の悲鳴を聞くことができて、土方は奇妙な充足感を覚えた。

「あ・・・やっ、い・や・・・!」

来島は絶えて久しい悪夢に翻弄された。
全身が小刻みに震え始める。
呼吸が荒くなっていく。
襲い来る強すぎる快楽は苦痛でもあり顔が歪む。
冷や汗がだらだらと流れ始め、時折短く声があがる。

内部からの責め苦に耐える来島の豊満な胸を土方が力強く掴むと、来島は悲鳴をあげて青い瞳を土方に向けた。

それが拒絶か促しているのかわからないまま土方は来島に問う。

「なあ」

体が中からも外からも嬲られていく押し流されそうになる。
嫌、嫌、嫌。晋助様以外の人からもたらされる悪夢こそほんとうの悪夢。

「おまえはあいつの何だったんだ?」

来島の唇がわずかに動く。

ア タ シ、 は・・・ しんすけさ ま のーーーーーー・・・

何だったのだろうか、そんなことは来島にはわからない。
ただわかっているのは、晋助様は自分を迎えに来ない。その絶望と、この薬による痴態を晋助様の許可もなくあの隻眼以外に晒してしまうかもしれない屈辱と恐怖、それだけ。








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私のはなしなんぞをこんな素敵なものにしていただけるとは…別に何も交換してないのにわらしべ長者状態…!鬼土方萌え…!
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