窓際の端の席に座って、赤くなった空を見上げる。
教室には誰も居ない。もう日も暮れる。
今日の授業はとっくに終わっている。なのに、あたしはまだ帰れない。
強く握った拳を見つめる。あたしは逃げられない。
・・・逃げたい。でもあいつから逃げることなんて出来ない。ハーっと息を吐くと、まるで諦めが吐き出されるよう。
また空へ視線を戻そうと顔を上げたとき、誰かの足音が廊下に響いた。
その足音は、こちらに向かっているようで、だんだんと大きくなる。
たぶん、先生だ。
ガラガラと戸を開ける音が無音の教室に響いた。
「来島、補習だよ。」
ニッと笑う銀八がそこにいた。
最初から銀八だと分かっていたのに。そこに居るのが銀八なことが、とても絶望的に感じる。
なんで、そこに先生がいるんスか。
そう問いたくなった。

廊下を、銀八と並びながら歩いていると、前から誰かがこっちに来るのが見えた。
その人影を見て、銀八はフッと鼻で笑った。そして、
「よー、高杉。」
わざとらしい声。その呼ばれた名に反応した自分を恨めしく思う。そんな反応に機嫌を良くしたのか銀八は、ニコニコしている。
なんだよ銀八。と、前から歩いてきた彼は、急に呼び止められて不機嫌のようだ。
チラッと彼の方に目を向けると、バッチリと目が合った。
「来島、お前こいつと何処行くの。」
視線が、刺さる。
片目だけなのに、なんて目力があるんだろう。と初めて会ったときに思った。
その強い目が、あたしを問い詰めてくる。
「補習だよ補習。な。」
銀八の言葉など聞いていないかのように、彼はあたしをずっと見ていた。
でも、耐え切れなくて目を逸らしてしまう。
人見知りをする子どものようにそっぽを向くあたしに、銀八はその肩に手を回してきた。
お前は逃げられない、と、がっちり掴まれたような気分になる。
そうだ。あたしは、逃げられないのだ。
彼はまだこちらを見ている。
見ないで。見ないで見ないで見ないで。
見られたくない。
汚い自分を、見られたくない。
「・・・早く行くッス、先生。」
そう小さくポツリと告げた言葉に銀八は優しく微笑んで、俯くあたしの肩を抱いて歩き出す。
背中に、視線が痛いほど刺さる。
彼は今、どんな顔をして見ているのだろう。あたしと銀八のこと、どう思っただろう。
気付いただろうか。気付かれてしまっただろうか。
そう考えると悲しくなった。
彼にバレてしまう。なんて悲しいのだろう。
そう考えながら、国語準備室のドアを開いた。
そして、あたしはまた泣くのだ。いつものように。
そして、銀八は笑うのだ。あたしを抱いて。

彼は、気付いただろうか。



蜂子さんに頂きました!銀八また嬉しい!!そして設定ドツボ萌え!