合法的に手に入れた合鍵で無人の保健室に入ったものの来島は居心地が悪そうに俯いている。万斉は内側から鍵を閉めると、白い手首を掴んでベッドに連れ込んだ。来島は特に抵抗せずにベッドに座る。何か考えているのか、瞳に力はない。
「嫌?」
万斉が訊ねると、来島の肩が大仰に震えた。
「嫌、じゃないっスけど…こういうとこでするの、初めてだし」
言いながら、来島は手の甲を覆うぐらいの長さのセーターの袖口を擦らせる。言葉とは裏腹に実際はまったく気が進まないというのが見て取れたが万斉は追求することはせずに来島に横に腰を下ろし口付けた。普段はそれなりに意志が強いほうだというのに、拒絶しきれないその戸惑いは愛情に基づくものか、はたまた居心地の悪さか。見捨てるのが怖いか見捨てられるのが怖いか。今を手放す不安か。まぁ、どれでもいいと万斉は思考を投げ捨てる。憐憫であるなら別だが、彼女を解そうとしたところで神経を逆撫でするだけの拙い愛情を見つけるだけだ。過ぎた純粋さは、他者を暗く撫で付ける。
舌を薄く開いた唇に差し入れやや強引に開く。来島の肩がぴくんと震え、指先が縋るように万斉のシャツの裾を掴んだ。万斉は手のひらで頭を撫ぜるように髪を掬う。咥内を軽く荒らした後、唇を離すと、来島はすぐに恥ずかしそうに俯いたが、軽く伏せられ睫毛に隠された瞳はてらてらと光り熱を滲ませていた。シャツの袖を掴んだままなのは、素直に愛らしいと思う。やや名残惜しくその指先を解くと、ベッドを覆うためのカーテンを閉めた。


来島をシーツに縫い止めて、先ほどよりも深く口付ける。おずおずと絡められる舌。絡めた指から伝わる微かな震え。万斉はセーラー服の裾から手を潜り込ませ、下着のフロントホックを外すと尖った先端をなぞる。それに反応して縮こまってしまった舌を執拗に追い、同時に寝た状態でも崩れない乳房を愛撫した。程よく肉付いた長い脚が快楽に戸惑うようにもぞもぞと動く。唇を離すと、薄い唇から淡い吐息が漏れた。潤んだ青が万斉を不安げに捉え、それを宥めるように微笑むと、首元に顔を埋めて軽く吸い上げる。広がる金糸から漂う甘い香りが鼻腔を突く。
「…私のこと好き?」
息を吐くように小さく零れ、問う言葉に、好きだ、と望むとおりに答えてやる。けれど耳元で囁いた万斉の表情は来島には分からないだろう。縋るように背に回された腕に、笑ってしまう。本当に訊きたい人間が他に居るくせに、臆病さゆえに別のものに縋る脆弱。確かなものを掴めずに後ろめたいものばかりを愛撫するから、疑心に雁字搦めに囚われて。他者への感情と自己愛の区別さえも付かずに死に絶えた過去をまるで生きているかのように見せかけているだけだ。なんども繰り返され疲弊した感情を焼きなおす作業を愛と錯覚しているのだろうか。しかしそんな無様な醜態を愚鈍だと内心嘲りつつ、その実、愛おしいとも思う。無様なのはまぁ、見ていて悪くない。子どもじみた八つ当たりだといわれてしまえばそれまでだが。

赤い花を白い肌に散らし終えて、顔を上げる。中途半端にめくれた制服を胸の上までたくし上げると豊かな胸を外気に晒した。
「あ、…やぁ…っ!ぅ、んっ…」
手のひらで形を変えながら、淡い突起を摘んで指の腹で嬲ると甘い嬌声が漏れる。だが来島はすぐに唇を閉じそれを噛み殺す。道徳的な場所でという背徳感から踏み切れずに声を抑えようとするその仕草が、万斉の嗜虐心を上手い具合に煽った。
スカートを脱がし、桃色のショーツをなぞれると華奢な肢体がぴくんと跳ね、白い双璧が揺れる。
「っあ、」
薄い布地の上から爪を立てるように肉芽をなぞった。指が往復するたびに痺れるような快楽を受け、蕩けた瞳がねだるように万斉を見る。秘唇が溢れる蜜に濡れているのが湿ったクロッチから伝わった。濡れた下着をずらして、指で生身の性器に触れる。誘うように赤い色をして、ひくつくそこは扇情的だった。十分にぬかるんだそこに指を二本入れて膣襞をなぞるように抽送する。
「ひゃっ!だめ、そこ…っ」
「ここ?」
膣口付近を刺激すると、来島の身体が小さく痙攣した。閉じようとする足を押し開き、三本目の指を挿入する。バラバラに動かすといっそう高い嬌声。
「ぅあっ、あ、や…!や、やだ、っぅん!!」
背筋からぞわぞわとした感覚が走り、耐えるように来島は身体を強張らせる。そのたびに膣襞が万斉の指をきゅうと締め付けた。あと少しで絶頂というところで、退いてしまう指先がじれったく、指先の思惑通り来島は微かに腰を揺らしそれ以上の快感を求める。だがそれでも思ったようなものは得られずに不完全な熱だけが身体の内側に溜まっていくようなむず痒い不快感に声を上げた。
「も、いじわる、しないで……っ」
「何が?」
万斉はわざとらしく聞き返しながら、指を根元まで深く突き挿れた。蕩けたそこは簡単に飲み込み味わうように蠕動する。かき回され、刺激されればされるほど蜜は止め処なく溢れ、指とシーツを濡らす。万斉がもう一方の手で乳房を揉みしだくと華奢な身体は素直に快楽に応じ、びくびくと跳ねた。それでも絶頂には行き着かず、かといって口に出して露骨にねだるのも来島の羞恥心が許さない。どうにか悦楽を吸い上げようと、蓄積する疼きを意識して泣きじゃくる。いやいやをするように頭(こうべ)を振れば檸檬色の髪がシーツの海で揺れる。
「ふ、っひぅ…!く…ぁ、あぁっ!」
甘い責め苦に苦痛を滲ませる来島の膣から指を抜き、万斉は制服を崩す。男根を蜜を溢れさせる秘口へ押し当てると一気に抉った。
「ひゃあぁっ!」
声を抑えることさえ忘れて来島が情欲に濡れた悲鳴を上げた。眉根を寄せて瞳を閉じ、涙が目じりからこめかみへ落ちてゆく。万斉の獰猛な雄が膣内を蹂躪し、同時に来島を追い立てた。鈴口が子宮口を叩き、そこから伝わる快楽が頭の先まで上り始める。肉襞は悦ぶように、怒張したモノをしゃぶる。待ち焦がれていた刺激に来島は淫靡に身を反した。
「あっ、きちゃ…ぅ!くぅ、あっ、っあぁぁあああ!!」
そのまま身を委ねるとすぐに、行き場のなかった劣情も一緒に外に溢れだす。達しながら銜えこんだ雄をきつく締め付ける膣内に万斉は吐射しそうになるのを堪え、そのまま貪婪に抽送を続ける。絶頂を味わいながら更に性器を擦られ、重なる悦楽に来島はひっきりなしに声を上げて涙を流した。押し寄せる快感を飲み込みきれずに戸惑い乱れる来島の媚態は支配欲を促すには十分で。万斉は乱暴に肉棒を打ちつける。
「っぅ、あ!やだっ、また…っ!ンッ、ふぁっ、やあ、あぁっぁぁあーーっ!!!」
甲高い声で鳴くと、来島は再度快楽の淵に落ちる。脳天に突き刺さるような衝撃に、全身を固まらせた。万斉は狭まり蠢く膣から自身を抜くと来島の腹部に欲望を吐き出す。白濁としたそれは荒い呼吸に上下する胸の辺りまでかかり、身体のラインに沿うようにどろりと伝った。快楽の余韻から抜け出せていない身体は熱い体液が撫ぜるように零れ落ちる感触にすらびくびくと痙攣する。虚ろな視線は閉ざされたカーテンをぼんやりと見つめ、じんわりと広がる情欲の残滓に来島は身体だけでなく意識まで融かされているようだった。万斉が衣服を整え終えた頃、鍵の開錠音の後、扉がレールを擦る音が静かな部屋に落ちた。鈍く翳んだ意識に侵された来島は上手く思考が動かないのか急激な反応はしないものの、ゆっくりと視線を扉のほうへ向けた。万斉は動じずにそれを眺める。

もう2人、この部屋の鍵を持っている人間を万斉は知っている。狙い定めたわけではないが、悪意なのだろう、たぶん。来島の視線に合わせて、わざと作ったカーテンの隙間も。万斉は他者を甚振ることに酔ったりはしない。それは自尊心や克己とは違う。もっと鋭利で不純物のない、疑念に似たものだ。優越よりももっと歪んだ、澄んだ闇の塊。過ぎた純粋さは他者を暗く撫で付ける、から。そうして薄暗い闇にも軽々と触れる。それがどんな暴力性を秘めているのかも知らずに。

脳裏に浮かんだ鍵の持ち主の彼が一体どんな顔をしたのだろうと考えて、来島を見る。たちまち蒼白に変わっていく顔色が暗い愉悦を誘った。溢れそうになる笑みを押さえつける。もう一度、扉の音。今度はやや乱雑に響く。来島は色を失った唇を震わせて、半身を起こした。混乱しきり衣服を整えることさえできないのか、現状を受け入れられないとばかりに目を見開き、心もとない指先で口元を覆った。知り合いかと感情を抑えて訊けば、はっと顔を上げた来島の瞳から大粒の涙が溢れる。瞳は明らかに怯えを映して、未来への恐怖を隠しもしない。幻想と理性の狭間に取り残されて、絶望に四肢も思考も押さえつけられた彼女を突き落とすならば今だと思ったけれど、決定打は下さずに、慈悲に流された愚かさを演出して抱き寄せる。かわいそうに、と内心で吐き捨て頭を撫ぜた。来島は身体を硬くするものの万斉を突き放そうとはしない。崩れた世界で、愛情を悔悟したところで悲痛が増すだけだろうに。来島のその悲しみは、万斉の闇をひとすじ色づける。水に絵の具を垂らしたような、そんな様子でゆっくりと澱ませ、やがて薄れて見えなくなった。ここで、あの時彼女が問うた言葉をそのまま返してみたらどれほど気分が良いのだろうかと想像して、薄く笑う。痛々しく身体を震わせて泣きじゃくる来島の指先が縋るようにシャツを掴むのを、万斉は先ほどの口付けで掴まれたときとは反対に、冷めた心地で見下ろした。