欲しいと思って強請ってみたら、案外あっさり手に入った。俺はよくモノを壊してそのたびに同情心だけは無駄に強い部下に小うるさく言われるし、実際壊れてしまうのはもったいないから、今度はなるべく大切にしようと思ったのに。所有物の分際で意に反することばっかりするから辟易してしまって結局3日も持たずに喚く声を潰した。でも別に俺が悪いわけじゃない、と、思うんだけどね。反省したけど、それから一週間何度痛めつけても逃げようとするから面倒くさくなって、今度は足を潰した。偉大な師匠の真似をして。でも俺は別に、失望がみたいわけじゃない。

「何度も言ってるしもうウンザリなんだけど、あんまり苛立たせないでね。また、殺しちゃったら困るし。」
せっかく何ヶ月も待ったのにまた待つのは面倒だし。何度も殺すと孕まなくなるでしょ、まぁ人間って弱いし。
うっかり加減を忘れて潰れて流れた胎児を思い出したのか、それともただ単に掴まれた足が痛かったのかわからないけど、青い瞳が滲んだ。俺たちのとは少し色が違う。朝露に濡れた植物みたいな鮮緑が少し混じった青。
猫の鳴き声みたいな声しか出なくなった喉も、歩けない足も、脅えた瞳も、月みたいな髪も、好きだと思う。大切にしたいと、今だって思わなくもない。これって愛なのかな。愛じゃないなら、じゃぁなんだろう。色んな他人がそういうものを教えてくれようと、あるいは教えてくれたみたいだけれど、俺にはどうにも理解できないものみたいだ。想像も予想も出来るけれど、感慨が浮かばない。血の臭いや肉を裂いたり骨を圧し折る感じのほうがそういうものより分かりやすい。死にぞこないの老人の戯言を反芻しては、押し戻して、結局持て余す。何もないならそれで結構。俺が求めているものの行き着く先が虚無なんてそんなのはなから知ってる。悲しいだなんて、まさか。
押し開いた先を指でなぞった。暴力的な行為しか知らないせいか、すっかり心の傷ってやつになって、全然濡れない。未だにやたらと脅えるし。懇願したくても、まぁ声が出ないからできないね。かわいそうにね。
初めて犯したとき、あの男の名前を呼んで泣き喚いたから、お前が健気に呼んでるそいつがお前のことくれたんだよ、って親切に教えてあげたけどただただ泣くだけで結局恨み言の一つも引き出せなかった。イライラして、喋る気力もなくなるぐらい殴ったからかもしれないけど。でもそれだって、普通だったらすぐに殺してしまうところをこれ以上なく神経使って微細な手加減で殺さないように頑張ったわけだし、褒められてもいいぐらいじゃないの。口は動かなくても、目はものを言いたげにしていたから、それだけ瞳が喋れるなら言葉なんていらないよね、って、その後喉を潰した。でも、結局喋れようが喋れなかろうがこの女があいつを憎むことはないんだろうし、今も俺には聞こえない声で名前を呼んでいるのかもしれない。それは愛だろうか。そんな惨めなものが愛なら、確かに愛ってやつで世界を救えるのかもしれない。あの太陽が、枯渇した哀れな男を救ったように。
けど、とてもとても残念なことに、今こうやって組み敷かれている女が客観的に救われないってこと俺にだってわかる。(その救われなさとかが好きだけどね、すごく)