「まさかあんたが真選組だったとは…。しかも下っ端ならともかく一番隊隊長…。」
「俺だって驚きでさァ。鬼兵隊幹部とはな。」
苦々しく呻くように言う来島とは対照的に嘲りの色を混ぜた声音で返す沖田。口元には恋人の正体に気づきもしなかった自嘲かはたまた純粋な嘲りなのか笑みが浮かんでいる。相対している2人に共通しているのは手元にあるのが人を殺せる凶器だということだ。来島は愛用のリボルバー、沖田は日本刀を抜刀直前の構えで握っている。
「てっきり高杉の情婦かと。」
嘲笑が色濃くなった沖田の台詞に来島は一層眉を険悪なものにした。が、自身を宥めるように息を吐く。
「この距離だと私のほうが早いっスよ」
「さぁ、どうですかねェ。試してみますかィ??」
「その自信は私が引き金を引く前に間合いに入れるってことっスか」
「そりゃぁ勿論ですが、それよりもあんたが引き金を引けるかっていうほうが問題でさァ。」
「っは」
沖田の台詞を鼻で笑うと右手に力を込めた。安全装置はとうに外してある。左手で、太ももにあるもう一つの相棒の感触を探る。来島と沖田の距離は丁度リビング一つ分。一方の端に来島、もう一方の端に沖田。来島が知る限り「一番隊長」の実力は真選組内でも卓越したものだということだ。少なくとも三本の指には入るのだろう。間合いから数歩分の距離があるとはいえ、一足で来るというのも考えられないことではない。かといって、その間に引き金が引けないかといえばそんなことはない。過信しているわけではないが、殺すか相打ちの自信はあった。それ相応の裏打ちだって今まで積み重ねてきている。保険としての銃だって左手にある。負けるつもりなど毛頭ない。だが、その中のただ一つの不安要素。それは沖田の言うとおり来島が沖田に向かって引き金を引けるかどうかということだった。「真選組の一番隊長」ではなく「沖田総悟」に。来島の背に嫌な汗が伝う。先ほど動揺を悟られないよう笑い飛ばしたものの正直躊躇わないでいられる確信はなかった。情など捨てた気でいたが、実際このような場面に立ち会うと揺らぐものである。揺らぎに比例するように、今まで沖田とこの部屋で過ごした日々が記憶の底から溢れだしてゆく。それは右腕を麻痺させる麻酔だった。甘美で悲しい毒だった。きつく歯噛みして、打ち消し理性で塞き止める。いくら美しく飾っても終わったことなのだ。目の前の男は始末するべき敵で、ここは仕事の場所、標的の棺桶。そしてなにより
(晋助さまを裏切るなんてできない。