万斉が不憫なので注意。万またではないです。



鬼兵隊の紅一点が武器庫に籠もって出てこないという半苦情のようなものを受けて万斉が現場へ向かうと、整然と壁に立てかけられたり箱に入っていたはずの武器が床に並べられていた。そしてその中心にまた子がぺたりと座り込んでいる。
「…また子ちゃん、なにをしてるのでござるか。」
「ちょっと準備っス」
また子は万斉をちらりとも見ずに、使い心地を確かめるようにトゲ付き鉄球を振り回している。その横にある鞄の口からは鉈や日本刀、マシンガン、ペンチ、爪きり、なんだか良く分からないけれど鈍器のようなもの、など錚々たるメンツが覗いていた。
「なんの?って訊いてもいい感じ?これ。」
「人気投票1位から3位まで消してこようかと」
「うっわー。予想してたけど実際言われるとちょっとひくでござる。」
「だってそしたら晋助様がナンバーワンっス!私の中ではいつだってナンバーワンでオンリーワンで世界に一つだけの花だけど名実共にナンバーワンになるっス!」
渇いた笑いを吹き飛ばすように勢い良く立ち上がり、夢見る方向を仰ぎながらトゲ付き鉄球を高速で振り回し熱弁をふるうまた子の姿に、万斉は嘆息と共に肩を竦めた。
「ナンバーワンになってどうする気で?銀魂から晋魂にでもする気か?」
「あぁー」
「あぁー、ではござらぬ。納得しなくていいから。それいいね、みたいな顔いいから。」
「万斉先輩は19位だから繰り上がって16位になるっスよ。よかったっスね!」
また子がVサインを作り万斉に向ける。19だろうと16だろうと四捨五入すれば20で大して変化もない順位に繰り上がっても…あ、でもランキングに画像が出るようになるな、とDANDAN心魅かれてく万斉に気づいていないのか気にしていないのかまた子は並べたものを吟味する作業に戻ってしまった。右手に金槌、左手に藁人形を持ち真剣な表情で見つめ続ける様子は嫌な怖さがある。
面倒くさいので(プラス順位が上がれば画像が出るようになるので)このまま放置して帰ろうかと思ったが、ふと、気配を感じて振り返る。扉の前に武市が立っていた。いつもどおり、ポーカーフェイスを崩さない。実を言うと万斉はこの感情の読めない目が苦手だったりする。また子はやはり気づいていないのか気にしていないのか凶器に夢中だ。
「一応、忠告にきました」
「ほら、また子ちゃん、56位の変態が怒りにきたでござる」
「えー。じゃぁ、22位のジャスタウェイに似てるのに56位だった武市変態から消そうかな」
「変態じゃありませんフェミニストです。だいたい56位で何が悪いんですか。あなた達とは違って身の程と出番の分量を弁えた謙虚な数字です。むしろやや高めの傾向です。大体、また子さんはジャスタウェイに負けて…なんですか、その鉈は?ひぐらしですか?私は沙都子が…ってえ?本気?眼が本気?」
沙都子が、のあたりでまた子が振り下ろした鉈を武市が志村剣で受け止める。嫌な金属音を間に挟んで二人が対峙するが、また子の高杉への(尋常じゃない)愛の力が勝るのか武市のほうはじりじりと押され気味である。しかし、あくまでもポーカーフェイスは崩さない。
光を無くし絶対零度に近づくやや瞳孔開き気味な青い目でまた子が笑う。
「大丈夫っス。あんまり痛くならないようにするし、最終回が放送禁止にならないように死体もちゃぁんと隠してあげるっス。晋助様の邪魔するやつと私が晋助様の為にすることを邪魔するやつは私が皆殺しにするんス。」
「ほう、そうですか。それなら私は関係ないですね。別に止めても止まらないヤンデレ猪女を止めに来たわけじゃありませんから。」
「なーんだ。っていうか猪女っていうな!」
また子は武市の言葉にあっけなく武器を背後に放り投げた。放り投げた先の、あと数センチずれていたら鉈が脳天直撃だった万斉は本気で引き気味である。そこは『嘘だ!』で返すところだろうというツッコミを喉に押し込み、これ以上また子を放置すればろくなことにならないだろうという天の声が聞こえたような気がしたので素直に従うことにする。先ほどの放置という選択肢を塗りつぶすと、また子の暴走を防ぐためにも武市を促した。
「では忠告とは?」
「先ほど、高杉さんが『俺とまた子でワンツーフィニッシュじゃない、俺はそいつが腹立たしくてならねぇ。こんな腐った世界ぶっ壊す。俺の中の黒い獣以下略』ということで1位から3位および5位から22位までを消しに行くそうです」
武市の言葉にまた子が間髪入れずに歓声を上げる。
「そんな、晋助様…また子は晋助様が一番になるだけで十分倖せなのに…また子のことまでちゃんと考えてくれてるなんて!晋助様と私でワンツーフィニッシュだったら晋魂に加えて高またっス!」
神に感謝を述べる模範的な信者のように、両の手のひらの指を胸の前で絡ませながらまた子が感動しきった様子で目を輝かせた。周囲に花でも浮かべられそうな勢いである。完全に自分の世界に浸っているまた子とは逆に万斉は口元を引きつらせた。
「5位から22位ということは…武市殿の忠告はつまり」
武市はジャスタウェイに似た瞳で万斉を数秒見ると、無言で肯く。万斉の背筋に嫌な汗が伝った。そして、急に訪れた、ぞわっと背筋が粟立つ感覚に思わず刀に手が出そうになる。だが、とっさの判断でその反応を押し込め、すぐに動けるよう重心だけ移動させた。むしろ、刀を抜かなかったことが本能かもしれない。ここは戦場でも殺し合いの場でもない(つい数分前に惨劇がおきそうにはなったが)。しかし、背後にそういった何かが居る。そう確信すると同時に、
「あ、晋助様!!」
遠いお花畑の国から帰ってきたまた子がいっそう目を輝かせる。万斉がぎこちない動きで恐々と背後を振り返ると、にたりと笑う高杉と目が合った。