攘夷時代、高杉がまた子拾って鬼兵隊に入れているという勝手設定前提なので注意。







今までなんとも興味なんてありませんって顔してたくせに介入されたら必死になるだなんて都合が良すぎると思わない?って笑ったら黒い瞳に一層殺意が湧いて、この上なく面倒くさい。俺もこんな風な目や髪に生れればよかった、なんて思って、今更だけれど。なんだか思考と感情の回線がぶつりぶつりと千切れていっているのがわかってこのままだと無感動に死んでいくような気がしてしまってだとしたら道連れにするのはあの子どもだろうと考えれば考えるほど死神が手のひらを伸ばして俺の首根っこを掴もうとする。今ごろ泣いているんだろうか、かわいそうに。まぁ、俺のせいだから俺は慰めにいけないけど。かといって怒り狂った眼前のこの男も慰めにいかないのだろう。じゃぁなんでこいつが今俺を責め立てているのかというと、俺よりこの世界から愛されているってただそれだけの理由だ。
憤怒が肌に刺さる。そのなかに一片の悲しみも見つけられなくて、その不条理に叫びだしそうになるのを薄っぺらい笑みで耐えた。満ち足りた人間の、こういう傲慢さに俺は発狂しそうになる。


あぁお前はいつだってそうやって俺のことを憎憎しげにみているけれど、俺が欲しかったものは結局はお前の持っているものだった気がするよ。お前は疎ましがっていたけどお前の母親はお前のことを真剣に愛してたんだと思うし、帰れば何もかもが満ちていただろうに。先生のところに居る必要なんかなかったくせに。なにが、先生先生、頭おかしいんじゃねぇの。なんでお前にあの人が必要なんだよ。俺から奪い取ってまでなにを求めてたんだよ、お前は。
確かに俺はお前とは違う何かを持っていたかもしれないけど、それは俺が得ようと足掻いたからであってお前みたいに元々与えられたものじゃない。なにもしないで、すとんと落ちてきたものなんてない。有るとしたら人を殺す力だけだ。誰かを抱きしめたいと願うのにどうして俺にはそういうものがないんだろう。俺を抱きしめて欲しいと願うだけなのになんでそれが叶わないんだろう。先生が居なくなって悲しいのは自分だけだって顔して、本当忌々しいよお前。お前を抱きとめる腕なんて他に沢山あるくせに。
あいつのことにしたって、贅沢なお坊ちゃんの部屋に埋もれた埃塗れのオモチャを拾い上げただけだ。捨てるのさえ疎ましがられて、そのまま置き去りにされるなんて。お前にはそういうの分からないんだろうけど。
お前の無意識の中に潜んだその傲慢さや残酷さを許容するあいつは、俺の中にあるお前へ一直線に向かう歪んだ感情を上手に反射して俺に浴びせてくれたよ。ただただ醜悪。そして結局この悲惨な有様。
俺だって普通に愛してやりたかったけど、所詮は夢物語みたいなもので。慈しみ方を教えてくれたあの人は、死んでしまったし。
あぁ、この失望が、少しでもお前の糧になればいいのになぁ。そうして蝕んでいけばいい。俺の中の空白を、少しぐらい持っていってそうしてあいつの頭を撫ぜてやれよ。俺じゃ駄目なことぐらい知っている。それでも得たいと願ってしまう、愚昧な俺をお前の幸福で殺してくれ。

胸のうちで渦巻く言葉を吐き出したところで、現状の変化が望めるわけでもなくただの徒労で終わることが分かっていたから沈黙を貫く。それが癇に障るのか、胸倉を掴まれた。膨れ上がった怒りを抑えた声が聞こえたけれど聞き流した。あぁ、うん、そうだね、ごめんね。そうやって思い知ればいいのにね。お前が。

絶望に塗れた腹の中が、本当に膨れてしまえば良いのに。あいつは優しいから自分勝手に棲みついたその生き物を愛すんだろうし、その生き物の遺伝子が半分入ってるってだけできっと俺のことも愛してくれる。血に塗れなくたって俺の頬を撫でてくれる。あの人は俺の中で生かすから、お前はずっとそうやって幻影を追ってなよ。幻ぐらいはくれてやる。だから代わりにあの子を頂戴。