男は私を殴る。私の口の中では赤い花が咲く。溢れ出す。男はそれを見て満足そうに笑う。私は陰鬱な気分になる。
「好きだよ」
男はにっこりと笑ってそう私に言う。何度も何度も。まるで刷りこみだ。私は何日前からこの男以外の人間と会っていないのだろうか。時間の感覚すらない。
「本当に」
私は殺されない。私は解放されない。男の指は私の身体を這う。私は顔を歪める。どうしようもない。
「…泣くなよ」
泣いてなんかいないと言おうとしたけれど喉が詰まって言えなかった。縛られた腕が痛い。男が私を傷つけるのと同じ手で頭を撫でた。私は一層苦しくなる。
「好きだよ」
男は一方的だ。何をするにも。与えることしかしない。隔離することしかしない。
「……私も好きっスよ」
言った後に私は男の真似をしてにっこりと笑ってみた。今度は男が顔を歪める番だった。私が与えるものをとことん拒絶する男は私の首を絞めた。息が出来ない。どうしようもない。全身で与えられることを求めているのに拒絶する術しか知らない男はいつか重度の拒食症患者のように痩せ衰えて死んでしまうのかもしれない。