精液と涙と汗と。鮮やかな無数の血色の痣と涙を真似るように滴る血液。濡れた瞳の奥に怯えと歯の根すら合わない震え。体液と被虐と恐怖に塗れて来島が高杉を見上げる。散々の陵辱の後に高杉が木箱から取り出したのは注射器。中の透明な液体が来島を怯えさせる。「腕、出せよ」来島は高杉の言葉に力なく首を振り、これ以上後ずさりしようがないというのに追い詰められた壁に更に身体を寄せた。「…も、ゆるしてくださ…」嗚咽に交じった弱弱しい声で懇願する。一度それを口に出すとぷつんと糸が切れたように次々と溢れ出す。いやですもうむりですこわいゆるしてやめてこわい。来島は液体の正体を知っている。以前何も知らずに使われた、内部から嬲るための道具だ。気の狂う感覚を覚えてる。そのときの恐怖が足元から這い上がる。来島の悲痛な懇願に高杉はつまらなそうな視線を向けると嘲りと共に吐きすてた。「お前が嫌ならいいけどな」それは妥協でも優しさでもなく、用済みだという宣告だと知ってる。吐き捨てるのは言葉だけではない。来島は怯えのほんの少しを惑乱に変えて縋るように高杉を見る。高杉の右目は冷えたままだ。その温度に息を呑む。血の気がいっそうひいた。あの液体に侵されるのも酷い恐怖だが、それ以上に高杉に見捨てられるほうが来島にとってはずっと怖い。突き放されそうになるたびに、世界が真っ暗になって思考がそこで止まる。過去の悪夢が脳を支配したがそれを未来への更なる悪夢の想像で押さえつけ、引きつる肺を絞るようにして言葉を繋ぐ。「…ご、ごめんなさい、いやじゃ、ない、です…」力の入らない腕を震わせて自ら差し出した。高杉は何も言わずに見下ろしている。その沈黙は続きを促すようだったので、来島は唇を震わせたまま高杉の意のままに続けた。「くすり…っ、ください、もう、嫌がったり…しません、ごめっ…なさい…ごめんなさい…」その後もごめんなさいと何度も繰り返すと、高杉は表情を愉悦に変えて来島の腕を取った。その瞬間心を満たすのが安堵なのか絶望なのか来島には分からない。