暴力。酷い話かも。また子が鼻血。経血とかそういう単語とかネタが出ます。







か細い悲鳴を無視して頬を殴った。部屋に入ってから5回目。付き合ってからは、分からない。数え切れないぐらいというのが一番正確に近い。来島は壁際で体を丸めて、腕で顔を覆う。ぐずぐずと嗚咽が聞こえる。袖を捲くって、火傷で盛り上がった皮膚を舐める。その後甘噛み。軽く歯を立てただけだというのに来島は可哀想なほど脅えた。来島の太ももにはまだ噛み痣が残っている。
「嫌なら帰ってもいいぜ」
それなりに落ち着いた声音で訊ねると、しばしの沈黙のあと来島は俯いたまま力なく首を横に振った。
テーブルの上のリモコンをとって電源をつける。ありがちな情報番組が画面に出たので、チャンネルを回して砂嵐に変えた。昼間から何をしているのだろうかと先ほどの情報番組のせいでつまらない現実を思い出してしまった。その点砂嵐は良い。何もない。ザーーーーーとそれだけ。何も伝えない何も感動しない何も気づかせない。
足を開くようにいうと、来島は素直に従った。来島は月経というやつがないからそれを理由に断ることがない。中学3年の冬と春の間になくなったそうだ。理由を聞いたら大変愉快だったので一層来島のことが気に入った。愛おしいというやつかもしれない。そうだろう。これが愛ってやつだろう。
制服を捲り上げて、下着も捲くり、全ての衣服を剥ぐと、現れる傷だらけの白い裸体。下腹部の引き攣れた傷跡と火傷だけは、俺のものではない。裂かれた痕に、乱暴な愛撫をするように爪を立てて、愛の言葉を零せば、来島は肯く。わたしも、とくぐもった声に、くつくつと笑いがこみ上げた。あぁそうだな愛し合ってるもんな俺たち。
来島のこの傷は俺のものではないが、俺の左目ととても似ている。そう思うと、生きる音と一緒に漏れ出す残忍な愛情。もう一度殴った。だって愛し合ってるもんな俺たち。 来島の悲鳴は綺麗だ。悲鳴の中でも俺を肯定する。いや、肯定せねば生きていけないというほどの切迫感が心地よい。俺は全ての許容や憧憬を求めているのではない。そうなってしまえば矮小な箱庭の哀れな道化だろう。そんなものは求めていない。しかし、俺のためだけに生きればいいとは思う。支配とは違う。もっと別の、なにか、埋めあうような奪い合うような。どちらにせよ相反するものばかりで積み上げたのだからその矛盾で傍からみれば異常極まりない関係がいつ崩れてもおかしくない。けれど俺と来島が普通に生きると言うのは無理だろう。そんな未来だけは裏切らずに影のように俺たちを追い立てるのだと頑なに信じている。来島にとっても俺にとっても、互いがナイフの代用品と変わりない。自分の傷痕に触れるのが怖ろしいから他者に触れさせるのだ。そしてその他者とは、例え被虐と加虐で対峙しながも、行き着く先は同じ場所でなければならない。だから、手と手を取り合うべきだ。こんな風に。陰惨に。
優しく触れて、抱きしめあい、穏やかな言葉をかわし、そっと手を繋いで、その延長線上の未来を描いて、笑いあう。そんなもの吐き気がする。兎にも角にも破壊しつくしたくなる。一番壊したいのは自分なのに、これ以上壊れようがないので相手に委ねて。取り合った手をひいて、終わりの場所へ連れて行って欲しいと希(こいねが)う。
苛立ちを紛らわすために耳を澄まして砂嵐を聞こうとするが、来島を傷つけるほうが早かった。振り上げた拳。呻くような悲鳴と壁に頭部が当たる鈍い音。
そんなに力を入れたつもりはなかったのだが、来島の鼻腔からどろりと血が落ちた。それは白い腹部を伝う。傷跡を濡らした赤い道筋は陰部を辿って、それはまるで来島の失った経血に擬態するようだった。