冷たい箱庭独りきり。美しいものだけを並べてみたけれど途方もない無力感に傷つくだけで、ひりひり焼け付く怠惰を糧に一つ一つ壊して回った。誇張で固めた思い出を踏み潰す作業。手が伸ばされるのを待っていたけれどいつまでたっても望んだ形の指先爪先肌色は見えなくて。大きな嘘を壊せずに膝を抱えて蹲る。私のことは忘れてください。私のことは愛さないでください。蠢く音がする。心臓の音が鳴る。足音はしない。理解に足掻いて不条理に足踏みして。行き先を示す指の先を歩いてきたけれど、間違っていたと気づいたのはいつだったか。昨日、一昨日、一週間前、一年前、もしくは明日、明後日、その先の未来。求めてみたけど言葉が見つからない。正しいことが出来たらよかった。正しく生きれたら良かった。箱庭に置いた一番綺麗なお人形になれたらよかった。もしくは他人の望む形のアメーバになれたらよかった。
悲鳴が聴こえて、血吹雪。暗い赤い海。人の気配。足音もなく近づく影。いっそのこと

「…置いていくでござるよ」

無言。無音。海が足元に迫って草履を赤く染める。紅いのは私であるはずだけどだとしたら命の色は美しくなんてない。吐き出すことも出来ずに飲み込んだ。鬱々と身体を駆巡る。足首、子宮、背骨を伝って。脳へ駆け上がろうと。腕を掴まれて立ち上がらせられる。掴む力が強くて、巡るそれは断たれてしまった。脳まで届かない。私は機会を失う。この男は決して迎えに来たわけではないのだと言い聞かせる。錯覚してしまうのが一番悲しい。迎えの来ない迷子のくせに悲劇を許せるほど寛容ではないから。びちゃりと音を立てた小さな海も私と同じように変えがたい怯懦に吸い上げられていく。腕を掴んでいたのが手のひらを握って。生身のそこにそれは冷たすぎた。箱庭が増えた。高く聳えるそれに私はまた機会を失う。