突然糸が切れたように疲れ果ててしまう瞬間というものがあり、それが訪れるたびに傲慢だなとまた子は感じる。自分自身に失望する。
失望の起因も結果も様々な種類がありどれもまた子の感情を陰鬱に沈めたが、今回は運良く目の先に茶屋があったのでそこで体を休めることにした。
疲れれば体を休める、腹が減ったならそれを満たす、そうすることしかできない。それ以上の自己救済はなにも見つからなかった。その事象も同じく傲慢であるが、そもそも、贖罪などというものが、きっと傲慢なのだ。


 平生よりもゆっくりと団子を食む。外の縁台に腰かけ、足元の蟻の行列を見ていた。孤独な人間は蟻の幻覚を見るらしい。では、逆に蟻の幻覚をみなければ孤独ではなかったと証明できるだろうか。もっともまた子には、彼が幻覚を見たか見なかったかなどわからない。
 明るい女子の笑い声がした。その主たちはまた子の後ろに腰を下ろしたようだ。3種類しかない団子をあれこれと言いながらしばらく迷い、結局また子と同じ種類のものを頼んでいた。
 楽しそうでも、くだらなくもあった話を往復させる女たち。こういったものを羨ましいと思ったことは一度もない。また子にとって必要なものは別のものであり、そしてそれは叶えられていたからだ。また子は蟻の幻覚をみたことなどない。
 ふと明るさが立ち止まり、女の片割れが、そういえばさっきのあれで思い出したんだけどね、と急に声に静けさを滲ませた。

「昔、姉が川で溺れた時に助けようと飛び込んだ男の子がいたんだけどね」
「姉は大人に助けられたけど男の子はそのまま流されてしまって」
「姉はその子の名前をすぐに忘れてしまって、冷たい人だなと思ったんだけど」
「でももう私も思い出せない」

 最後の団子をごくんと飲み込むと、また子は立ち上がった。脚も気力も奮い立たせたものに近い。それでも、立ち上がり歩き出すことはできた。素晴らしいことだ。
 龍穴はまだ膨大な数がある。それは希望の数だろう。だって、私は諦めたりはしないのだから。
 また子がふりかえった先に、女2人はどこにもいなかった。




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テーマ「人外ファンタジー」
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