こちら(https://twitter.com/swiccco/status/497045158571937792/photo/1)をもとに書いてもらった140字小説です。


金糸雀/嘘/きらめき 銀また
それって天然?と顔を覗き込んで聞いてきた。金糸雀色って初めて見た。と感想を述べて男は私の頬に触れる。私は手を振りほどき、そうっスよ珍しいでしょう と返す。途端、顔面に男の手が二つ伸びて自由を奪い、指先で私の眼球を軽くなぞって、表面を摘まんでみせた。嘘つき。男の眼はきらめきを隠さない。


マリーゴールド/指/幸福ではない 銀また
開けないで、と言ったのに男は、あっさりと障子窓を引いてしまった。差し込む陽の強さに手で両目を庇いながら、手近にある着物を羽織る。マリーゴールド色 に染まったのは部屋のみならず、男の髪も透けて、指の隙間からそれを見つめる。こうして密に逢うたび、それが決して幸福ではないことを思い知る。


ベビーピンク/声/おはよう 銀八また+
違和感に目を覚ますと、知らない女の子が私に跨って微笑んでいた。「おはよう」とベビーピンク色の髪を揺らしてその子は離れる。声に聞き覚えがあった。 「起きたよ先生ぇ」別の部屋に向かって彼女は声をかけさっさと行ってしまう。テーブルの上に、ラムネが沢山散らばっていた。何も思い出せなかった。


灰白色/砂/溶けゆく### 銀また?
男が大きな袋の塊を持ってきたところで、私はけらけらと堪え切れず肩を揺らした。どうやら脅しではなかったらしい。袋から大量の砂のようなものが出されて いく。本気なんだ。と呟くと、男の動きが少し止まった。水の中で溶けゆく灰白色が、濃く暗い色に変化する。縛られた腕や脚にじっとり汗が滲んだ。


白藤/君/どこかで生きていて 銀八また
「『あゝ君よ、どこかで生きていて』」補習の時間。国語の課題の範囲を探していると、開き癖がついているページで指が止まった。聞いたことのないはずなの に、時折みる夢を思い出す。白藤色の挿絵を見つめ言葉をなぞる。夢には先生も出てくる。先生は夢をみるだろうか。私達が殺しあうような惨い夢だ。


白群/影/どうしても 銀八また
白群に溺れるように彼女はいた。制服姿のまま、瞳を閉じプールの水面に浮く様子はどこぞの絵画で見たような生白さだった。近づいた影が彼女の顔にかかる と、涼しいっスよ。とだけ声がした。そら涼しいだろうよと返して縁へ屈む。どうしても手の届かない距離で、金糸の束を煌かせ彼女は小さく息を吐いた。


灰白色/砂/溶けゆく## 空気銀またパラレル
大理石の床が間近にあって、また殴られた、とその冷たい灰白色を見つめた。針の跡が嫌と断ったところで、避けられない。ならばどうして。拒んだ代わりに穴 の空いた袋が目前に投げつけられる。砂のように粉末はさらさら穴からこぼれて、床の色に溶けてゆく。窒息死もいいかなと少し考えてしまった。


灰白色/砂/溶けゆく# 銀また
ソファに凭れて、向かいに座る男を見つめる。お前がよければそれでいいよ、と全て放り出し微笑む男を、睨みつけるとその笑みは深まった。男の手は慣れた手 つきで、コーヒーへ砂みたいにさらさらとしたそれを大量に溶かしていく。げんなり見て私は、灰白色の革張りに体を沈み込ませ無性に泣きたかった。


青/涙/まぶしい 銀また
何してんの、と男に声を掛けられた。墓地裏の竹垣の下。しゃがんだまま見上げると、男の真後ろの光源の眩しさに視界を焼かれた。垣根に絡みつく、青い花群 へ目を戻す。ここに昔、埋めたんスよ。屍の灰には夥しい花群がわく。ふーん。と男の気のない返事に安堵した。朝露が涙のようにぽたりと落ちた。


ストロベリー/爪/きみはかわいい 銀八また
誰もいない保健室に入り浸っているのを知っているのは先生だけ。氷水を張った洗面桶に捻った足首をつける私の、隣に先生は座って補習の教材をまとめてい る。かわいいね、と言われ振り向けば目が合う。それ、とストロベリー色のペディキュアを指して先生は笑った。先輩が好きな人の真似だと知ってる癖に。


スペアミント/髪/いつでも 銀また
江戸に初上陸したアイス屋の列に割込みした男の胸倉を掴むと見知った銀髪頭だった。まぁいいじゃんと馴れ馴れしく肩を触り、前に並んだいつでも上調子な男 を睨む。奢ってやるからと結局赤とスペアミント色の二段を渡された。一口頂戴と図々しい男の表情に、端からそのつもりだったのかと後悔した。