夏休みだというのにすることは何も無い。だらけるかいつもの奴等と遊ぶくらいで退屈していた。今日は坂本が海に行こうと突拍子も無いことを言い出した為、地元から少し離れた海辺に来ている。集まったのは坂本と桂と俺だけだった。いつもいるはずの高杉は用事があるとかで居なかった。結局男3人で海に来たところで何ら楽しいことは無く女の子を捕まえることも出来ず飽きて解散となった。

帰り道この近くに有名なひまわり畑があったことを思い出して、1人で立ち寄ってみることにした。ひまわり畑は海から程近いところにあった。今日は運良く雲一つない晴天でひまわりの鮮やかな黄色が青空に良く映える。ふと目をやると少し前に真っ白なワンピースがふわりふわりと風になびいている。ワンピースからは華奢な手足が伸び、金髪もさらさらとなびいてる。青空とひまわりの黄色と彼女の白いワンピースはあまりにも合っていて現実離れしていた。まるで絵画のようで見惚れてしまったが見知った人物だと気付く。

金髪のあの髪型はおそらく来島また子だ。あの華奢な体型といい間違いない。いや、間違えるはずは無いのだ。ずっと逢いたくて待ち焦がれていた。夏休みが退屈で長ったらしいと思う理由は彼女の存在にもあった。声を掛けようと駆け足で近付く。追い付いて顔を覗き込めば彼女は少し驚いて肩を震わせたが、すぐに坂田先輩!と笑顔を見せた。

「こんなとこで偶然っスね!ひまわり見に来たんスか?」
「いや、坂本達と海行った帰りにフラッと立ち寄っただけ。来島ちゃんは?」
「今日晋助先輩と出かける約束してて、今から待ち合わせ場所に行くんスよ!デートっス!デート!!」
彼女は満面の笑みではしゃぎながら話す。高杉が居なかった理由はこれかと納得すると同時に胸がチクリと痛む。高杉はいつも俺の欲しいものを奪っていく。そして素知らぬ顔で俺に接する。あいつの存在は誰よりも俺の何かを確実に抉り取っていく。嫉妬や羨望、苛立ちや悔しさが渦巻く中、平静を装って話を続ける。

「そういえば知ってる?ひまわりの花言葉。」
「知らないっスね。」
「『わたしはあなただけを見つめる』らしいよ。来島ちゃんにぴったりじゃん。時間あるなら一つ摘んでけば?」
「え、でもいいんスかね…?」
眉を下げ困った表情を見せる彼女の手を引き、大丈夫大丈夫と言いながらひまわり畑の中を進んでいく。
「ここ花畑の迷路とか言われてるらしいけど、どうせなら1番綺麗なの持って行きたいよねー。」と言い、中頃まで進むと彼女は強く手を振り払った。ふとひまわりを見れば彼女よりも俺よりも背が高くもう外からここに人が居るなんてわからないだろう。

彼女が何かを言おうと口を開くと同時に肩を強く押すと彼女は見事に尻餅を付いた。真っ白な買ったばかりであろう白いワンピースには泥がはねていた。昨日雨が降っていたのか少し地面はぬかるんでいる。
「何酷いことしてくれてるんスか!」じとりと俺を睨みつけた後白いワンピースに視線を落とし、どうしようと何度も呟いている。先程彼女がデートだなんてはしゃぎながら話していた表情を思い出す。あの時みたいな満面の笑みで高杉と逢うんだろう。両手をポケットに突っ込み俺を蔑むような顔で来島の横を歩く高杉を思い出す。悔しくて腹立たしくて居た堪れなくなる。

尻餅を付いたままの彼女の腕を地面に押さえつける。彼女の上に馬乗りになり、ワンピースをたくし上げる。彼女は身じろぐが力は弱く敵いそうにもない。触れてみて改めて彼女の華奢な身体を実感する。彼女は何度か鞄から出た携帯に手を伸ばそうとしたが払いのけ、込める力を強くすれば諦めた。髪の毛を掴み地面に顔を押さえつければ全てを諦めた。理性や良心は失くなり、欲望と加虐心だけが加速する。彼女が欲しいと心が、身体が求め続ける。

抱きしめてもまだ欲しい時一体何と言えば叶うのだろう?血が滲む程にキスしたいのは何故なんだろう?

どれくらい時間が経っただろうか。気付けば夕暮れ時も近い。自己嫌悪で呆然としている。膝を抱えて座っている俺の横で彼女はぐったりとしている。大好きだった彼女の髪も真っ白なワンピースも泥まみれで、顔は涙と泥でぐしゃぐしゃになっている。目は虚ろになっている。絶景だと思う自分は最低なんだろうか、それとも何処かおかしいのだろうか。見惚れていると、ふと目が合う。彼女はハッとして、落ちたままの携帯を拾い電話をかける。

「もしもし、晋助先輩?遅くなってすみません。今日体調悪くなっちゃって行けそうもないです…。」
耳を澄ますと電話越しに少し怒気を含んだ高杉の声が聞こえる。彼女は何度もごめんなさいと謝る。何に対して謝っているのか、彼女が悪い訳ではないのに謝るのはどんな気分なんだろうか、とぼんやり考える。電話が済んだようで彼女は泥をある程度払ってじゃあ、とだけ言ってひまわり畑を去って行く。自分も泥を払い後を追ってひまわり畑を抜ける。抵抗の末靴の紐はちぎれてしまったらしく、靴を片手に持って裸足で少し前を歩いている。彼女の背中をただただ見送る。彼女の足取りは酷く重い。自分のしたことなのにその重さは心にずしんと残り、ひたすらに罪悪感に苛まれる。空を見上げるともう夕暮れで空は赤かった。ひまわりは変わらずしゃんと咲いている。ここで自分だけがどうしても汚く情けない存在に思える。ただ彼女が好きなだけで欲しかっただけなのに何をしているのか。

花言葉といい、太陽に向かって真っ直ぐ咲く姿といい、ひまわりは本当に彼女そっくりだ。1番綺麗に咲いているひまわりを摘む。あと何回彼女を傷付け、希望を奪えば満足するのだろうか。いつか誰かから聞いた御伽話を思い出す。歌姫に惚れた男が歌姫にそそのかされて悪魔に血を売り、悪魔になってしまった話。きっと自分もその哀れな男と同じなのだろうと思いながらその日は帰った。摘んだひまわりは机に置いたままだったので翌朝には枯れていて、鮮やかな黄色は見る影も無かった。

Yellow






Daisyのまめこさんからいただきました!「向日葵畑で背の高い向日葵に隠されながら白いワンピースも身体も汚されちゃうまた子萌え」と執拗に言ってたら書いてくださいました!まさかこうして読める日がくるとは… 感 動 !!まめこさんありがとうございましたー!