「それどこのお店っスか?」と珍しく興味深そうに聞いてきたので残り最後の一個のシュークリームを俺は一気に食べきって視界から消してやった。シュークリームに嫉妬というやつだ。恥ずかしい事だが、彼女はどうやら単に意地悪されたと思ったのか膨れていた。
シュークリームには関心持っても俺には見向きもしないよなお前。というツッコミは口から出る前に胃のシュークリームに吸収されてしまった。胃の中で皮は めくり上がりカスタードクリームが無惨に飛散していることだろう。
体内で死んだシュークリームは俺の体内で同化を求めたようだった。糖分を貪欲に取り込もうとするこの消化器官はカスタードクリームのどろりとした想いを受け入れた。隣人を愛せよ。もといシュークリームを愛せよ。シュークリームごと彼女を愛せよ。クリームを出し尽くした皮が小さく息をついた。

あんなに物欲しそうにしていたのに、紙箱いっぱいに買って来てやったら警戒の眼差しを寄越すこの女は何なんだ。野良猫を手懐ける訳でもあるまいに。遠慮しているのか?たくさんあるんだから頑張って食えよ。頭を撫でながら、せっかくだからと食べさせるのを手伝ってやった。手のひらの柔い塊を彼女の口に押し当てる。少しもがいた彼女の片腕を捕まえて、こぼれたクリームも喉の奥へと押し込んだ。呻きながらも飲み込んだので、ああやっぱり食べたかったんじゃないかと納得する。少し続けたら何故か彼女は謝りだした。やましい事でもあったのか。ひたすらに口周りを淡い黄色のクリームで汚したまま涙を流すので、無性に別の物を押し込んでやりたくなった。急がば回れ。俺は昔の先生の教えを胸中で説く。ムラっとする彼女の面を袖口で拭ってやって、急がば回れ。さらにシュークリームを押し込んだ。
せっかく全て食べきった、見事な完食だったのに、彼女は泣いたまま、今度はクリームが身体中についたまま、空の紙箱に全て戻してしまった。
人間の体内で享受されるはずだった憐れなシュークリーム達。毎日頑張ってこれを作ってる人の気持ちを踏み躙る行為。そういうのお前どう思う?彼女は泣いたまま、謝りだした。食べたかったんじゃないの?せっかく愛せよと謳ったというのに。俺はお前を愛せればぶっちゃけどうでもいいよ。
彼女は泣いたまま謝りだした。