なんだか空がやけに広くて高くて、掲げた掌はひ弱に小さかったので自分が子供の身体をしているのだと気づいた。二つの眼球で見上げる青空は、痛い。
「来島」
「はい」
喉を擦った声はやはり高い。来島は見知った姿のままだった。考えてみれば俺は来島の幼い時分など知らないのだから当然といえた。それでも目線がやや下に落ちるのは来島が腰を下ろしているからだった。緑に埋もれて、シロツメクサを丁寧に編んでいる。よくよく見れば葉はどれも四つ。ここは倖せに満ち満ちているのだと、なんともつまらぬことを思った。
「お前、そういうの得意なんだな」
「そうなんです。結構器用なんスよ。」
「お前なら、この場所でも生きていけるだろうに」
ある種の期待と憎悪を込めて言った。言葉の上では淡々としていたけれど、内情は実に醜い。そして、多少の罪悪。引き止めているのは、他でもない。
俺は希望を持ちたいのだろうかと考える。身体を流れる汚濁は得られない希望の残滓だろうか。残虐の上に立つ息絶えた未来だろうか。瞳の裏側に死骸が見える。ゆっくりと、鮮明に、世界と重なってゆく。腐り落ちる肉を啄まれた虚ろな骨は、天に落ちて、俺の耳元で甲高く鳴った。それは死者の叫喚だった。俺ももうすぐそこに行くだろう、と、慰めたところで、その慰めはただの逃避と残酷なのかもしれないが、俺にはもうそれしかないのだ。例えばそれが希望であるとして。あるいはそれが絶望であるとして。
「晋助様は王様です」
花の王冠が頭に落ちた。それは軽くて、香るはずのない花のにおいがする。甘ったるくてほんの少しおぞましい、熟れすぎた、あるいは腐りかけの果肉のにおい。
「無理矢理王座に乗せる私たちを」
来島は苦しげな顔で微笑むと、俺を見る。俺はいつの間にか現在の俺に戻っている。いや、これは現在なのか。未来なのか。
「あなたはきっと許さないだろうけど」
空と同じ色をした炎が一対揺らめいた。許すとただ一言言う前に、全ては消えた。