「結局お前のしたことはなぁんの価値も無くて、お前がここに居るってことが、最悪、ってわけ」
薄闇の中赤い瞳を禍々しく光らせて、不幸の配達人はゆっくりと微笑む。その好奇心と愉悦の引力によって波がひくように身体から熱が消えて、芯からぞっと冷え切った。ぜつぼう、の文字が目の前をちらちらと横切って、たまらない。彼女を悲劇に貶めたのは、自分だった。救いたい、ただそれだけを願っていたのに。けれど、それだけが、いつも叶わない。挙句、この事実。また子は糸が切れたようにくずおれ、救いの見えない世界に傅いた。コンクリートに、涙が落ちる。ぽたぽたと、止まらない。歯は上手くかみ合わず、自然と音を立てた。
「…、……は、絶対助ける…」
舌を噛みそうになりながらもそう口にしなければ浸食されてしまいそうだった。そうなってしまえば全てが終わってしまう。迷うことさえ許されなくなってしまう。続けたところで目の前の生き物を喜ばせるだけだと、分からないわけではなかった。それでも、ここで変容するわけにはいかない。まだ終わってなどいない。絶対に、と、息を吹き返すがごとく、もう一度続けると、銀時が膝を折った。そして、たおやかな所作でまた子の涙を拭う。
「うん、がんばってな」
銀時の言葉は怖ろしい響きをもってまた子の耳を打った。切り立った崖の端に立っている人間の背を押す言葉。やわらかに回転する絶望の産声。まだ生きろと言う。まだ続けろと言う。また子の願いを肯定する。それは、願いはすべて絶望するためのみに在るのだと突きつけられていることと同じだった。
全身から噴出す欲求に従って銃を取るとまた子は引き金を引いた。なにか叫んだかもしれない。それは言葉にならず、なんの形にも残らなかった。それでも絶叫した。カチカチと渇いた空っぽの音が続いたときには、銀時は目の前にいない。
風穴だらけでも死なないのがこの劣悪な生き物だった。銀時はいつの間にかまた子の背後に立つと、今にも倒れそうな軟な身体をぎゅうと抱きしめる。それに抵抗する力はまた子にはもうなかった。銀時から流れた血が、戦うための服を染めてゆく。
「そうやって立ち上がっては熟される、お前の絶望が楽しみだよ。だから、もっともっと傷つけよ。全部俺が食べてやるから。」
銀時の指がもう一度また子の目の淵をなぞれば、指についた血を巻き込んで流れた。まるで血の涙のような様相で。


友人に唆されました